超伝導回路の劣化は「微小金属粒」内のクーロン閉塞(Coulomb blockade)が原因の一つか
研究の主題は、薄膜で作った固体量子回路のコヒーレンス(量子の壊れやすさ)を低下させる新しい材料起源のメカニズムです。研究者らは、標準的なリソグラフィーでできる薄膜中に存在する微小な金属粒(グレイン)が、クーロン閉塞と呼ばれる現象とマイクロ波による電荷のトンネル移動で回路にエネルギー損失とノイズを与えることを実験的に示しました。これは従来よく疑われてきた「二準位系(TLS)」とは物理的に異なる原因です。二準位系は不明な欠陥の総称ですが、本研究は別の明確な起源を特定しています。
実験では、動作中の超伝導共振器の上方で導電探針の電位を変えながら伝送信号を走査する「走査ゲート顕微鏡(SGM)」を用いました。チップ上の局所点を探りつつ探針電圧を掃くと、共振器の読み出し信号が変化し、観測面には同心円状の輪が現れました。場所を固定して探針電圧を掃くと、電圧に対して等間隔のピークが20個以上観測されることもありました。欠陥は時間とともにオフセット電荷のジャンプを起こすことがあり、読み出しマイクロ波の強さを増しても飽和しない応答を示しました。測定は希針冷凍機でミリケルビン台(装置台温で約15 mK、実測で約45 mKに達することあり)で行われています。データの一例では共振器周波数は約5 GHz〜6.7 GHzです。
高いレベルでは、観測された欠陥は「電子島(island)」のような小さな金属粒で、周囲の導体とトンネルでつながっています。小粒子では電荷を一つ増やすのにエネルギー障壁が生じ、これがクーロン閉塞です。共振器のマイクロ波がそのエネルギー準位を周期的に駆動すると、電子が島へ入ったり出たりします。入出力の繰り返しは駆動と緩和を交互に起こし、系にエネルギーを吸収させる「シシュポス(Sisyphus)散逸」に似た損失を生みます。研究者らは島モデル(離散電荷準位が連続帯にトンネル結合したモデル)で観測された同心円模様やピーク間隔、線形応答を再現できたと報告しています。解析に使われた代表的なパラメータ例として、トンネル抵抗が数十キロ〜数百キロオーム、結合容量がフェムトファラド(10^-15 F)程度という値が得られています。
この発見が重要なのは、こうした金属粒由来の損失とノイズが薄膜固体デバイスで広く現れ得る点です。研究者らは、これらの欠陥がTLSと同程度に一般的で、デバイス性能に同程度致命的な影響を与えると指摘します。さらに重要なのは、従来の評価法ではこの種の損失をマイクロ波出力に依存しない別の機構に誤帰属してしまう危険があることです。また、量子ビット設計で用いられる「チャージノイズ対策」が、このマイクロ波駆動のクーロン閉塞には無効である可能性がある点も報告されています。観察は超伝導回路に限らず、低温でマイクロ波を使う他の薄膜デバイスにも関係すると示唆されています。
重要な限定事項として、今回の結論は走査ゲート顕微鏡による局所的な実験と複数デバイスでの観察に基づきますが、薄膜プロセスや材料の種類によって発生頻度は変わる可能性があります。論文では酸化したエッジ付近や粗い・粒状の超伝導薄膜で特に発生しやすいと予想する一方、近年の材料科学ツールで検出・除去が可能であり、薄膜堆積条件の最適化、エピタキシャル成長、封止(エンキャプスレーション)などの加工改良が実用的な対策として挙げられています。著者らは、金属粒を製造工程で減らすことが、この新たな散逸経路を抑え、マイクロ波ベースの固体量子デバイスのコヒーレンス改善につながる現実的な道だと結論づけています。