調整可能な壊れた可積分性が引き起こす量子多体系のカオス出現を回路モデルで定量化
この論文は、可積分(解ける)状態からカオス(乱れた振る舞い)へと移る過程を、制御可能なパラメータで破ることで量子多体系においてどのように現れるかを定量的に示します。著者らは一列のキュービット(あるいはマジョラナフェルミオンに相当)で作る回路モデルを考え、可積分性を保つ「マッチゲート」だけの回路に確率λでSWAPゲートを混ぜることで、可積分性を段階的に壊します。変化を追う指標として、out-of-time-ordered correlator(OTOC:時刻が入れ違った相関関数)を用いています。OTOCは情報の拡散や量子混合の指標として使われます。
研究手法は次の通りです。マッチゲートはフェルミオンで二次の演算に相当し、λ=0で回路は厳密に可積分になります。SWAPゲートは四次のフェルミオン項を作り出し、これが可積分性破壊の源になります。マッチゲートをランダムに平均すると、OTOCの時間発展の平均は正確に古典的なマルコフ過程に写像できます。さらに連続近似を取ると、ノイズを含む伝播波方程式(Fisher–KPP型)でOTOCを記述できます。この写像により、大きな系でも統計的に厳密な結果を得られます。
主な結果は明瞭です。可積分な限界(λ=0)ではOTOCはガウス形に広がり、拡散的に減衰します。具体的にはOTOC(r,t)≈(2πDt)^{-1/2}exp(−r^2/2Dt)の形で、拡散定数は論文で例としてD=2が示されています。一方で小さな正のλでは、SWAPゲートが局所的な「ホットスポット」としてOTOCを局所増幅し、それらの蓄積により長時間では完全なカオス的振る舞いが現れます。後者ではOTOCは前線が弾道的に進む(速度v_B)とともに前線の幅は拡散的に広がります。著者らはスケーリング形OTOC(r,t)=F((|r|−v_B(λ)t)/√t)を示し、バタフライ速度v_B(λ)は概ね√λに比例すると報告しています(対数的補正あり)。また、前線の広がりに対応する拡散定数はλへの依存が小さいとしています。
さらに論文は、可積分からカオスへの明確な時間・長さのクロスオーバー尺度を導き出しています。特徴的時間はt*(λ)∼λ^{−1}、特徴的長さはr*(λ)∼λ^{−1/2}です。物理像としては、r≪r*の領域では可積分な拡散的OTOCが先に現れ、局所のSWAPが到達するまで一時的な最大を作ります。対照的にr≫r*では到着時点で既にカオス的前線が支配しており、到着時間はおよそr/v_B(λ)になります。この解析により、距離とλに応じた到達時刻の振る舞いが整理されます。
注意点や限界も明記されています。ここで示される解析は、ランダム化したマッチゲート族に対する平均OTOCに基づくもので、マルコフ過程への写像は平均化の下で厳密です。結果は一維チェーンのこの回路アンサンブルに対して得られたものであり、全ての量子系に自動的に当てはまるとは限りません。またバタフライ速度の√λスケーリングには対数補正があるとされ、詳細な係数や高次効果は論文本文で議論されています。PDF抜粋は本文の一部に限られるため、厳密導出や追加の数値結果、一般化の議論は原稿全体を参照してください。