自動化されたABFEツールキット「Felis」を開発。43ターゲット、859化合物で大規模ベンチマーク
この論文は、タンパク質と小分子の結合強さを理論的に予測する「絶対結合自由エネルギー(ABFE)」計算を自動化し、大規模に評価するためのツールキットFelisを紹介します。ABFEは個々の化合物ごとに結合自由エネルギーを直接計算できる方法で、既存の相対結合自由エネルギー(RBFE)が想定する「共通骨格」の制約を必要としません。著者らは、この手法を高スループットに使えるようにすることを目指しました。
著者らはFelisをオープンソースで実装し、薬剤様分子向けのデータ駆動型力場ByteFF25と組み合わせて評価を行いました。ベンチマークは43のタンパク質ターゲットと859のリガンド(結合分子)で構成されます。さらに、電荷の大きいリガンドや補因子が含まれる難しいKRAS(G12D)データセットでも性能と収束性を検証しました。すべての予測は「ゼロショット」設定で行われています。つまり、個別のベンチマーク系に合わせて力場やアルケミカル(段階的変換)スケジュールを調整していません。
Felisの計算は標準的な二重消去(double-decoupling)プロトコルに従います。これは溶液中でリガンドを「消す」操作と、タンパク質結合部位でリガンドを「戻す」操作を組み合わせて結合自由エネルギーを求める方法です。結合状態の扱いにはBoreschスタイルの幾何学的拘束を使います。拘束に使うアンカー原子は、短い無拘束分子動力学(MD)軌道から自動選択されます(DSSPとProLIFというツールで二次構造と相互作用を解析)。電荷の変化に伴う系の中性化には「アルケミカルウォーター」と呼ぶ水分子を使って部分電荷を補償する仕組みも組み込まれています。計算はOpenMMとopenmmtoolsで行い、AMBER ff14SBをタンパク質に、ByteFF25をリガンドと補因子に用いています。
なぜ重要かと言えば、ABFEはスキャフォールド(骨格)が類似しない化合物も個別に評価できるため、初期段階のヒット探索や化合物のスキャフォールドホッピング(骨格を変える探索)に向いています。著者らはFelisがRBFEの最先端法と同等のランキング性能を示すと述べており、高スループット向けの自動化とスケーラビリティを備える点が実用化への一歩です。特に、調整なしのゼロショット運用で結果を出せた点は再現性と実用性の観点で注目されます。
留意点もあります。ABFEは依然として十分なサンプリング(多くの計算)を必要とします。論文は大規模ベンチマークを示しますが、ここで用いたターゲット群は既存のRBFEデータセットのサブセットであり、全文の定量的精度や計算コストの詳細は抜粋部だけでは読み取れません。著者らはKRAS(G12D)での堅牢性を報告していますが、個々の系で最適化したプロトコルと比較した際の長所と短所は、本文全体のデータを見て判断する必要があります。