準古典重力でのシュワルツシルト内部:負のエネルギー核とプランク密度の出現
この論文は、量子効果を入れた重力理論(準古典重力)でシュワルツシルト半径の内側に入れた星の内部がどう変わるかを調べたものです。古典一般相対性理論では、密度がどれほど小さくても星のサイズを十分大きく取れば質量に対応するシュワルツシルト半径の内側に入れられます。しかし星の半径がシュワルツシルト半径の9/8倍以下になると圧力が発散し、それが重力崩壊を引き起こすことが知られています。著者は量子の真空エネルギーを加えると圧力の発散は抑えられ、代わりに中心に負のエネルギーを持つコアが生じると主張します。さらに、星のサイズがシュワルツシルト半径に近づくほど、外側の物質の密度は最終的にプランク尺度(G−2のオーダー)まで上がると示しています。ここでGはニュートン定数です。
研究の方法はこうです。球対称で静的な星を仮定し、中身を「非圧縮流体」(密度が一定)としてモデル化しました。全エネルギー・運動量テンソルを流体部分と真空部分の和に分けます。真空部分は場の量子効果を反映しますが、その評価を簡単化するために、共形場に対する「ワイル異常(Weyl anomaly)」という既知の関係を使って大まかに見積もっています。この異常により、曲率の二乗に比例する項が支配的になり、圧力と曲率が有限の上限を持つことが導かれます。結果として古典解で起きる圧力の発散は消えます。
具体的な結論は次の通りです。量子真空の効果により中心近くに負のエネルギー量Aを持つ「準古典コア」が生じます。星全体の質量を同じに保とうとすると、コアが小さい分、流体部分の密度は非常に大きくなり、星の半径がシュワルツシルト半径にほぼ一致すると密度はプランク尺度ρ∼G−2に達します。コアの大きさはおおむねrs1/3G1/3(rsは星の半径)と見積もられます。負のエネルギーAはrs→rh(rhはシュワルツシルト半径)で急増し、形式的には無限大に近づきますが、これは負のエネルギーがプランクスケールに達する点で準古典近似が壊れるため、物理的にはそこまで単純には延長できません。
この結果が重要な理由は二つあります。第一に、古典理論で「低密度でもシュワルツシルト半径の内側に入れられる」という直感が量子効果で変わる可能性を示す点です。準古典効果が効くと、シュワルツシルト半径の内側の有効体積は非常に小さくなり、低密度の物質は入れられなくなります。第二に、ブラックホールの内部像についての直感を変える点です。著者はブラックホールの内部は底なしの大空間ではなく、非常に小さく詰まった空間で、プランク密度に近い物質や負のエネルギーが重要になるかもしれないと示唆しています。既往のs波近似を使った数値研究とも整合する点があるとしています。
ただし重要な注意点や不確実性もあります。本研究は真空のエネルギー・運動量テンソルをワイル異常によって概算しており、これは共形場での見積もりに基づきます。実際の物質は必ずしも共形ではなく、真空項の詳細は物質の種類によって変わります。また、負のエネルギーを仮定するなどの仮定も入っており、コアを点扱いにする近似は負のエネルギーがプランクスケールに達する前までしか妥当でありません。最終的には、曲率や圧力がプランク尺度に達すると準古典近似自体が破綻します。著者自身も本結果がブラックホール内部の完全な説明ではないことを明記しています。以上を踏まえれば、この研究は量子効果が重力の強い領域でどのような新しい振る舞いをもたらすかを示す示唆的な一歩です。