三つの別室にある単一原子を効率よく量子もつれにした実験(フェデレーテッド光共鳴器を用いた3ノード)
研究の要点は、三つの独立した実験室に置かれたそれぞれ一個の原子を量子もつれ(3量子ビットのGHZ状態)にし、同時にそれを分配して記憶したことです。実験チームは三原子のもつれ状態の忠実度(正しくもつれている割合)を77(1)%と報告し、もつれの持続時間は200マイクロ秒を超えるとしています(本文では約2200マイクロ秒以上と記述があります)。三ノードもつれ生成の効率は1試行あたり0.16%で、技術的な制限を除けば毎秒およそ10回の実行に相当するとしています。観測された原子間の相関はMerminの不等式を破り、検出の抜け穴(検出ループホール)を閉じていると述べられます。
実験は中央ノード(Lab C)を介して二つのリンクを順に作る設計です。まずLab AとCでは、それぞれの原子と光子を「vSTIRAP」と呼ばれる制御パルスで結びつけ、原子と光子がもつれたペアをつくります。ここで生成した光子同士を線形光学素子で行うベル状態測定(Bell-state measurement:二つの光子を測定して、それによって二つの原子を直接もつれさせる手法)で結びつけ、AとCの原子をもつれさせます。もう一方のリンク、CとBでは、中央ノードが出す光子をノードBの「ヘラルド(成功を知らせる)メモリ」に格納します。ノードBの構造は二つの小さな光共鳴器を使い、一方に入った光子を原子状態に写像すると同時にもう一方からの「知らせの光子」が成功を告げる仕組みになっています。中央が順に二個の光子を送ることで三原子のGHZ状態を作ります。
実験で得られた具体的な数値も示されています。A–Cリンクのベル状態は平均80.5%の忠実度で、時間的に光子を絞る(テンポラルフィルタ)ことで効率を犠牲にして85.2%まで上げられます。C–Bリンクは平均88.0%の忠実度でした。光子の同一性を示すHong–Ou–Mandel干渉(HOM)可視度は最大で約80%です。光子の発信から検出までの全体効率はおよそ40%で、原子の読み出しは複数回繰り返すことでほぼ確実に結果を得られます。ノードBの状態識別は99(1)%の判別忠実度を持ちます。三ノードのもつれ状態については7つの相関項を測定し、約9400件のヘラルド事象のうち約8000件のGHZ状態を検出しました(10.5時間の実験で、各測定設定あたり少なくとも300件を観測)。
なぜ重要かというと、遠隔の記憶素子(原子)をつなぐ光-物質インターフェースの効率が量子ネットワークの拡張で最も大きな制約になっているからです。今回の実験は1試行あたり0.16%という三ノードもつれ生成効率を達成し、同種の実験としては高い成功率を示しています。論文はこの効率が多ノードに拡張するための明確な道筋を示すと結論づけています。実験はファイバーネットワークに換算すると約40 km相当の通信距離に対応するとも述べています。
重要な注意点もあります。まず、0.16%という値は同分野で良い指標ですが、絶対的にはまだ低い成功確率です。高い忠実度を得るために時間的に光子を切り詰めると効率が落ちるなど、忠実度と効率の間のトレードオフがあります。光子の同一性(HOM可視度)が約80%に限られる点ももつれの質を制限します。さらに今回の実験は三台それぞれに異なる共鳴器設計や操作法を使っており、実際に多数ノードへ拡張するにはコヒーレンス時間の確保や追加のバッファメモリなど、さらなる技術的対策が必要です。論文は有望な一歩を示しますが、実用的な大規模量子ネットワーク構築にはまだ越えるべき課題が残っている、と結んでいます。