タバコ税の引き上げは若年層の喫煙を減らすか—EU27か国の調査で差分の差法と機械学習を併用して検証
この論文は、2012年から2020年の欧州連合(EU)27か国の調査データを使い、たばこ税やたばこ価格の引き上げが喫煙率に与える影響を調べたものです。研究者は、大幅な税や価格の上昇を経験した人々と、価格や税が安定していた人々を比べる「差分の差」(difference‑in‑differences, DiD)という手法を使いました。さらに、因果推論と機械学習を組み合わせた「ダブル機械学習」(double machine learning, DML)という方法で推定し、従来の方法で必要とされる厳しい仮定を緩めています。なお、EU加盟国は最低でもたばこ小売価格の60%を税として課すことが求められている点も研究の背景にあります。
研究では、ユーロバロメーターという大規模な世論調査データを用い、月に1回以上喫煙する人や日常的に喫煙する人をアウトカムとして扱いました。DiDにDMLを組み合わせることで、年齢や性別などの条件が喫煙に与える影響をより柔軟にモデル化できます。従来よく使われる二要因固定効果(two‑way fixed effects, TWFE)型の回帰は、処置効果が全ての水準で同じだと仮定しますが、この研究はその仮定を緩和する点で方法的な違いがあります。
主な結果は、たばこ税の引き上げが喫煙率を下げることを示しています。月に1回以上喫煙する人については、税増で喫煙率が平均3.44ポイント下がり、相対的には約15%の減少で統計的に有意(p=0.04)でした。日常喫煙者では3.15ポイント(約15%減、p=0.09)と推定されました。一方、たばこ価格の上昇については、5%水準で統計的に有意な効果は見つかりませんでした。論文は、価格の推定が内生性(価格変動が何らかの未観測要因と関係すること)により上方に偏る可能性を指摘しています。
効果の異質性では、喫煙率の低下は主に15〜24歳の若年層によってもたらされていると報告しています。推定結果は、アウトカムと交絡因子の関係を柔軟に扱う点では頑健でしたが、処置(治療)の定義を二値(大幅な増加があったか否か)にするか連続(増加幅そのもの)にするかで感度が高く、結果の解釈に影響を与えます。研究では、繰り返しの横断調査(同じ集団ではなく時点ごとに異なる個人を含むデータ)に適したDiD‑DML推定器を用いています。
重要な注意点としては、まず価格推定の内生性問題が残ることです。つまり、価格変化が政策以外の要因と同時に起きると、価格効果の推定が正しくなくなる可能性があります。次に、電子たばこ(e‑cigarette)など新しいニコチン製品の普及により、たばこ税の上昇が伝統的なたばこから別製品への置き換えを通じて現れる可能性がある点も評価を難しくします。また、推定結果は2012–2020年の高課税環境にある欧州のデータに基づくため、他地域や別の時期にそのまま当てはまるとは限りません。著者は方法論的な貢献として、従来手法と機械学習を組み合わせた推定の違いを示し、処置の定義の取り方が結果に与える影響を明らかにしています。