企業はどうAIを使っているか:ChatGPT Enterpriseの記録から見えた4つの事実
この論文は、企業が実際に先端の生成AIをどのように使っているかを調べた研究です。著者たちはOpenAIのChatGPT Enterpriseのアカウント記録を、利用状況、従業員の職務情報、メッセージごとの作業分類、上場企業の財務データと結びつけて分析しました。解析は2026年3月までのデータを対象にしており、プライバシーに配慮した形で大規模な利用実態を明らかにしています。主な結論は、利用は急速に伸びている一方で、企業ごとや部署ごとに差が大きく、まだ導入の仕方を学んでいる段階だということです。
研究で使ったデータは複数のサンプルに分かれています。たとえば、導入から6か月目の時点で分析した従業員レベルのサンプルには1,500を超える組織と1,700万件を超えるメッセージが含まれます。データはChatGPT Enterpriseの利用が大部分を占め、Codexなどの他製品もあるものの本分析では主にChatGPTとして扱われています。論文は、企業レベルの採用動向、社内での役割別・階層別の利用のばらつき、メッセージごとのタスク構成を順に報告しています。
著者らが報告する4つの主要な事実は次の通りです。第一に、ChatGPT Enterpriseの利用は急増しており、全体で見ると2025年6月から2026年3月の間におよそ7倍に増えました。同じ採用期の企業群だけを追ってもほぼ4倍になっており、成長の半分は既に導入済みの企業内での利用増でした。第二に、米国の上場企業では、採用は規模が大きく、時価総額が高く、研究開発(R&D: 研究開発費)や販売・一般管理費(SG&A: Selling, General & Administrativeの略、営業や管理にかかる費用)に投資を多くしている企業に集中しています。第三に、導入企業内での利用は職務や年次を横断して広がっており、特に若手の利用率が高いことがわかりました。マーケティングや広報の担当者は役員より多くのメッセージを送っています。第四に、使われているタスクは幅広く、文章作成、コミュニケーション、情報の要約・合成が最も多い一方で、調査、計画、データ分析、法務・規制、財務といった業務にも広く使われています。
この研究が重要な理由は、生成AIが「知識労働」に対する汎用的な道具として急速に広がっている実態を実証的に示した点です。企業ごとに導入の速度や目的が異なるため、AIがもたらす長期的な経済的価値は、個々の社員の利用が企業全体の組織能力や補完的な投資につながるかに左右されます。したがって、単に導入されるだけで効果が出るわけではなく、実務への組み込みや評価の仕方が重要になります。
ただしいくつかの注意点があります。まず、これはワーキングペーパーであり結果は変更される可能性があると明記されています。データはChatGPT Enterpriseに限られるため、他のAIツールやオフラインでの利用は含みません。プライバシー重視の手法のために個々の出力の詳細な中身まで公開できない制約もあります。さらに、本研究は「誰がどのくらい使っているか」「どんなタスクで使われているか」を明らかにするものであって、AI利用が生産性や雇用へどのような影響を与えるかという因果的な効果までは示していません。これらの点を踏まえつつ、企業がAIをどのように実務に組み込もうとしているかを理解するための重要な実証的証拠を提供しています。