最も重い元素「トリウム」を大量測定——金属の少ない星47個でr過程の変動を定量化
この論文は、宇宙で最も重い観測可能な元素の一つ、トリウム(Th)の量を金属の少ない星で詳しく測った研究です。研究チームは、トリウムの観測としては最大規模で均一に解析した47個の「r過程元素が豊富な星(RPE星)」を対象に、高分解能分光観測からトリウムの存在量を決めました。ここから、重い元素を作る「r過程(急速中性子捕獲過程)」の出力がどれほど一定か、あるいはばらつくかを直接示す新しい制約が得られました。r過程とは、中性子が非常に多い環境で短時間に次々と中性子が核に取り込まれていく核反応のことです。
研究者たちは2016年から2024年にかけて、Magellan/MIKEやduPont、Harlan J. Smithの望遠鏡などで得られた高品質なスペクトルを使いました。解析対象は信号対雑音比(SNR)が約4000Å付近で30以上のデータに限り、トリウム検出は3σ以上の確度があるものに限定しています。報告したデータのSNRは33〜312、平均133±75で、分解能(R)は4万〜8万の範囲です。解析は自チームの均一な手順に基づき行い、既存の文献データとも合わせて総計47星を扱っています。
主な結果は具体的です。金属量の低い星([Fe/H]が小さいほど金属が少ない)ではトリウムのばらつきが大きく、[Th/H]や[Th/Fe]の分散は約0.6デックス(dex)でしたが、金属がやや多い領域では約0.2デックスに減りました。トリウムはランタノイド元素のユーロピウム(Eu)やジスプロシウム(Dy)と良く共生成され、平均して[Th/Eu]≃0.0(対数で同程度)という結果が−3.0≲[Fe/H]≲−1.5と0.0≲[Eu/Fe]≲2.5の範囲で成り立ちました。一方で、対数比log ε(Th/Eu)の絶対範囲は1.02デックスあり、観測上の標準偏差は±0.20デックス、最も金属の少ない星群では内在的な標準偏差が±0.11デックスと評価されました。
これらの数値から研究者らは統計的な推論を行い、r過程イベントの約68%はTh/Euの生成比が±30%以内(対数で約±0.11デックス、=因子1.3)に収まる一方で、ごく一部(約5%)のイベントは生成比が3倍以上、場合によっては10倍近くまで大きく異なることがあると結論しました。これは、核物理と天体物理のモデルにとって重要な制約です。特に、ある条件ではトリウムが大きく増える「アクチニド・ブースト」や逆に不足する「アクチニド欠乏」と呼ばれる現象を説明する必要があり、同時に「すぐに起きて頑健(ほぼ一定)のTh/Eu比を作る」ようなr過程サイトをモデル化するのは現在の理論にとって難題だと示唆しています。
注意点もあります。トリウム観測は困難で観測時間がかかります。今回の解析はRPE星に限られ、検出はSNRや分解能、3σの基準に依存します。また、アクチニドの「増減」を判定する境界は、零年(zero-age)の生成比の取り方や太陽の較正に依存します。さらに、本研究は自チームデータと文献データを組み合わせており、サンプル選択や異なるデータ源による偏りが結果に影響する可能性があると著者ら自身が認めています。これらを踏まえ、より多くの高品質観測と改良された理論が今後の課題です。