スーパーカミオカンデで陽子の三体崩壊(ℓ++2π0)を初めて検索 寿命下限を10倍以上更新
この論文は、陽子が正反粒子の電子(陽電子)か正ミューオンと二つの中性パイ(π0)に崩壊するかを調べた実験結果を報告します。理論研究では、特定の大統一理論に依存せずに考えた場合でも、こうした「三体崩壊」が二体崩壊(例えば p→e+π0)と同じくらい起こりうると示唆されています。本解析は、スーパーカミオカンデ(SK)でこの崩壊モードを直接探した最初の試みです。測定に使った露出は合計0.401メガトン年でした。メガトン年は検出器の質量と観測時間の掛け算を表す単位です。
研究チームは、SKの全ての純水稼働期(SK‑IからSK‑V)で得られたデータを解析しました。スーパーカミオカンデは50キロトンの水を満たした装置で、光電子増倍管(PMT)で水中を走る電荷粒子が出すチェレンコフ光をとらえます。崩壊が起きると、陽電子や正ミューオンなどの荷電粒子が光を出し、その光の形と強さから崩壊の種類を識別します。解析では、崩壊信号の期待される形と、主な背景である大気ニュートリノ由来の事象をシミュレーションして比較しました。
観測結果として、二つの探索モードそれぞれで一つずつ候補事象が見つかりました。しかしこの数は期待される大気ニュートリノの背景と整合します。したがって崩壊の確実な検出とは言えませんでした。そこでチームは、崩壊が起きなかったと見なして下限を設定しました。得られた寿命の下限(部分寿命、τ/B)は、p→e+π0π0でτ/B>7.2×10^33年、p→μ+π0π0でτ/B>4.5×10^33年(いずれも90%信頼レベル)です。これらは前回の実験(IMB‑3)が示した約10^32年程度の下限よりも一桁以上高い値です。
この結果の意義は二つあります。第一に、陽子崩壊の有無は素粒子物理の基本的な問題、特にバーリオン数(物質の量を表す数)が破れるかどうかを直接調べる手段です。第二に、理論的に三体崩壊が二体崩壊と同程度の確率で起こりうるという予想に対して、実験的な制約が大幅に強化されました。これにより、関連する理論モデルのパラメータ空間が狭められます。
重要な注意点として、今回の結果は崩壊の発見を意味するものではありません。候補事象は背景と一致しており、統計的なゆらぎや検出効率・背景推定の系統誤差が影響します。論文では検出効率や背景事象数の体系的不確かさについてまとめていますが、ここで示した下限はそれらを織り込んだ90%信頼区間に基づく値です。また、設定された値はτ/B(寿命を当該崩壊の分岐比 B で割ったもの)という形で与えられており、観測が示すのは「その崩壊が起こる確率が十分に小さい」ことの下限です。
最後に補足すると、本解析は従来のp→ℓ+π0探索で用いられた手法を応用しています。今回SK‑Vのデータが追加されたことで総露出が増え、これまでより感度の高い制約を得ることができました。今後さらにデータを集めたり検出器を改良したりすれば、より厳しい検証が可能になりますが、現時点では陽子の三体崩壊は観測されていません。