フェルミオン型暗黒物質の“吸収”でLUX‑ZEPLINの高エネルギー事象を説明できるか
米国のLUX‑ZEPLIN(LZ)実験が高エネルギーの単一核反跳候補事象(248±32.5 keVの核反跳エネルギー)を報告した問題について、本論文は「フェルミオン型暗黒物質の中性カレント吸収」で自然に説明できると主張します。著者らは暗黒物質の質量を約247 MeVとすると、その静止質量エネルギーが核に吸収されて単一のモノエネルギー核反跳(約248 keV)を生むと示します。LZの低エネルギースペクトルが背景と整合する一方でこの高エネルギー事象だけが出現している点に着目しています。実験の総露光は約2.80トン・年です。
著者らは理論的には有効場の理論(Effective Field Theory; EFT)を使って吸収断面を計算しました。核全体に対して同調的に起きる「コヒーレント吸収」ではモノエネルギーのピークが生じますが、運動量移転が大きくなると核内の個々の核子(プロトンや中性子)を分解してしまい、「非同調(インコヒーレント)」な核子ノックアウトが現われます。LZで観測された運動量ではちょうどこの移行領域に入り、コヒーレントなピークと同時に個々の核子からの幅の広い反跳スペクトル(概ね約200 keVから100.2 MeVまで)を予測します。著者らは単一のEFT結合でLZの248±32.5 keV窓にちょうど1事象を与えつつ、隣接するエネルギー領域で追加の事象が観測されないことと整合するパラメータを見つけました。必要な単一核子吸収断面はσ_{χN}^{NC}=1.07×10^{-46} cm^2で、対応するEFTのスケールはΛ≃11.5 TeVです。
論文では現実的なモデル構成も提案しています。具体例としては、(1)バリオン数をゲージ化した「ベクトル・ポータル」と、(2)重いゼロスピン中性スカラーを仲介子とする「グルーオン結合スカラーポータル」です。それぞれの枠組みで吸収を生む四フェルミオン演算子の起源を示し、崩壊や異常(anomaly)に伴う制約を議論しています。また、吸収を説明する仲介子が暗黒物質の残りの存在量(レリック量)を単独で決めるのは難しいため、レリックは別の成分で説明する仕組みを想定しています。
重要な注意点もあります。著者らが示したベンチマーク点は、他の実験のデータにより既に強い制約を受けます。特に大型のシンチレーター検出器であるKamLANDの「中性子放出チャネル」を再解析した結果は、このベンチマークを排除します。これによりLZの事象をフェルミオン吸収で説明する解釈には大きな緊張が生じます。さらに、PandaX‑4T、MAJORANA Demonstrator、PICO‑60などもフェルミオン吸収に対する制限を出しており、領域によっては既存の限界と矛盾しないか注意深い検討が必要です。
最後に実験的な不確かさについて述べます。LZコラボレーション自身はこの単一事象を統計的に有意な余剰とはしていませんし、検出器レベルでのイベント選択(インコヒーレントな核子ノックアウトが実験のカットで排除されうる点など)や背景モデルの扱いが解釈に重要です。著者らは将来の専用の高エネルギー解析や追加データがこの問題を解決する鍵だと結論づけています。現時点では「可能な説明の一つ」を示したにとどまり、既存データとの整合性の問題が残っている、というのが論文の主要な結論です。