Ruddlesden–Popper型ニッケレート La3Ni2O7:高圧発見から基板での超薄膜超伝導までの最近の進展レビュー
この論文は、層状のニッケル酸化物「Ruddlesden–Popper(ラドゥルスデン–ポッパー)」型ニッケレートにおける超伝導の最近の進展を整理したレビューです。特に薄膜実験に焦点を当てています。主な出来事は、ビレイヤー化合物La3Ni2O7で約80 Kの超伝導が高圧下で観測されたことと、さらに2025年に報告された基板による圧縮ひずみを与えた超薄膜での常圧(高圧を使わない)超伝導の発見です。これにより、従来は高圧装置が必要だった研究が薄膜技術で広がる可能性が出てきました。
レビューでは、関連する実験手法と理論の進展がまとめられています。薄膜の作製にはレーザー蒸着や分子線エピタキシーといった成長手法が使われ、酸素還元という化学処理で別の結晶構造(いわゆる“112”や無限層相)に変換する手順が鍵です。過去の重要例としては、2019年にNdNiO2薄膜で約15 Kの超伝導が報告されたことが挙げられます。こうした前例があって、最近のRPビレイヤー・トリレイヤー研究につながりました。
La3Ni2O7の高圧下での結果は、圧力と温度の相図が詳しく示されています。報告では、超伝導はおおむね14~90ギガパスカルの広い圧力領域で観測され、最適圧力は約20 GPa付近とされています。圧力をかけることで結晶構造が変化し、室温近くでの結合角などが整うことが関係していると考えられています。類似して、三層のLa4Ni3O10でも高圧下で超伝導が確認されています。さらに材料の置換などでサンプル品質が向上し、高圧下で最大で約100 KまでTcが上がったという報告もあります。
一方で大きな進展は、基板の圧縮ひずみを利用した超薄膜で常圧超伝導が実現した点です。高圧実験では全方向に圧力をかけるのに対し、基板による圧縮ひずみは面内(a,b軸)だけを縮めて面直方向(c軸)を伸ばすため、結晶の変形の仕方が異なります。この違いは電子構造や軌道の寄与に影響し、角度分解光電子分光法(ARPES)のような手法で超伝導状態を直接調べられるようになる点が重要です。薄膜系は実験の幅を大きく広げますが、結果はまだ新しく再現や系統的研究が必要です。
物理的な背景として、La3Ni2O7中のニッケルは平均価数+2.5であり、これは“自己ドープ”された状態でホール(正孔)が存在することを意味します。無限層ニッケレート(Ni1+)とは電子の状態が異なります。説明には2種類のNi 3d軌道(dx2−y2 と d3z2−r2)が必要で、これらの間のHundの結合(電子同士の相互作用)が重要になります。また低圧側ではスピン密度波や電荷密度波といった異常が見られ、高圧側と低圧側は第一種相転移で切り替わるため、どのようにして超伝導状態が出るのかは未解決の点が多いと論文は指摘します。
本レビューが強調するように、今回の分野は急速に進展していますが、不確実性も残ります。超伝導のメカニズムは確定していません。高圧実験では測定手段が限られますし、薄膜報告は新しく、再現性や基板の影響、サンプル品質による差が結果に影響する可能性があります。著者らは実験と理論の両面でさらなる検証を促しており、今後の系統的な研究が必要だと結論づけています。