LHCbがB0→K*0μ+μ−の振幅をモデルに依らず測定 C9に4.3–4.8σのずれを報告
この論文は、B0という粒子がK*(892)0(K+π−に崩壊)とμ+μ−に崩れる過程の「振幅」を、特定の理論モデルに依らずに測定した結果を報告しています。解析にはCERNのLHCb実験で得られた陽子‐陽子衝突データを使い、中心-of-massエネルギー7、8、13TeVの合計で積分ルミノシティ8.4 fb−1に相当する事象を用いています。測定はμ+μ−の二乗不変質量q2が1.1–8.0 GeV2/c4の領域に限定されました。これにより、理論で扱いが難しいはずの共鳴付近を避け、q2依存性を詳しく見ることができます。
研究チームは、各振幅のq2依存性をLegendre(ルジャンドル)多項式の線形結合で表しました。これは多項式同士が互いに独立で扱いやすく、フィットの安定性を高めるためです。実際の解析では、K+π−μ+μ−の質量、q2、および三つの角度(μ子とK子の運動方向に関する角度)を同時に使い、拡張最尤法によるアンビン(q2で区切らない)フィットを行って32個の実数パラメーターとして振幅成分を抽出しました。S波成分(別の角運動量状態)はノイズ項として取り扱い、q2で一様と仮定したところ、統計的不確かさに比べて影響は無視できると評価されました。
得られた振幅からは角度分布に関する観測量が導かれます。論文はこれらのCP平均(粒子と反粒子を平均した値)観測量を示し、いくつかの観測量が標準模型(Standard Model)からのずれを示すと報告しています。このずれは「有効ウィルソン係数」と呼ばれる理論パラメーターの変化として解釈できます。特にC9という成分については、用いるq2の区切り方(ビン幅)に応じて標準模型期待値から4.3σから4.8σの偏差が見られたとしています。σは統計的な有意性の目安です。
この手法の重要性は、理論的に扱いが難しい長距離のハドロニック効果(強い相互作用に由来する影響)と、新しい物理(Standard Model外の効果)との区別を助ける点にあります。モデルに依らない(empirical)振幅記述は、q2を連続関数として扱えるため、従来のビン分けに依存する解析より柔軟です。これにより、グローバルなフィットや理論予測の検証に役立つ形でデータを提供できます。
同時に、いくつかの重要な制約や不確かさも指摘されています。まず、この「モデル非依存」手法でも振幅を実際に記述するためにルジャンドル多項式という経験的な形を採っており、完全に無作為というわけではありません。さらに、振幅の表現には連続的な位相対称性や離散的な符号の余剰があり、それを固定するための基底条件を導入しています。これらの選択は結果に影響を与える可能性があり、C9の偏差の数値はq2の区切り方や解析の詳細に敏感であると論文は述べています。したがって今回の結果は示唆的ですが、標準模型の完全な否定を意味するものではなく、追加の解析や理論的検討が必要です。