単層グラフェン越しに金属や共有結合材料でも“リモートエピタキシー”が可能に
この論文は、単層の二次元材料(例えば単層グラフェン)で覆った基板を通して結晶の配向を伝える「リモートエピタキシー」が、これまで考えられていたように強いイオン性の素材に限られないことを示しています。著者らは、金属や共有結合(非極性)材料の基板上でも単結晶薄膜の成長と剥離ができる方法を実験的に示しました。要点は、基板の導電性と表面の微細な段差(ステップエッジ)密度を設計してやれば、単層グラフェンを介しても結晶配向を伝えられる、というものです。
研究チームはまず「ビシナル」基板と呼ばれる、わずかに角度をずらして切断された基板を用いました。具体例としては、[111]軸から4度オフセットしたシリコン基板上に20 nmのエピタキシャルな金(Au)層を作り、これを単層グラフェンで覆った上で、室温の電解液相エピタキシー(液相で成長させる手法)によりさらに20 nmのAu薄膜を成長させました。走査電子顕微鏡(SEM)、電子後方散乱回折(EBSD:結晶方位を測る手法)、X線回折(XRD)、走査透過型電子顕微鏡(STEM)と電子エネルギー損失分光(EELS)で評価したところ、成長したAu薄膜は基板と同じ(111)面方位の大きな単結晶であり、単層グラフェンが連続して存在すること、原子間距離で約4.6 Åのvan der Waals(ファンデルワールス)ギャップが観察されたと報告しています。
仕組みの高いレベルでの説明はこうです。従来は、基板がイオン性(極性)結合を持つと、基板表面の電場の揺らぎが単層グラフェンを貫いて表面に現れ、その電場が原子や核(ヌクレイ)に配向のガイドを与えると考えられてきました。一方で金属やSi、Geのような非極性材料ではその電場がグラフェンで遮蔽され、配向は失われがちでした。本研究では、導電性の高い基板の「段差」直下にある単層グラフェンで局所的な電子の枯渇(電子が少なくなる領域)が生じ、それが急峻な電位変動を作ることで配向ガイドを与えると提案しています。密度汎関数理論(DFT:Density Functional Theory)による計算も行い、段差密度や基板の導電性が電位の深さを系統的に変えることを示しています。
なぜ重要かというと、この手法はリモートエピタキシーの適用範囲を大きく広げます。論文ではAu膜のほかに、ビシナルAu基板上でのCu2O薄膜やZnOナノロッド、Siウェハー上や銅箔上でのCu薄膜など、金属と半導体の複数系を挙げており、作製したエピレイヤーは大面積で単結晶、かつファンデルワールス界面で簡単に剥がせると報告しています。これにより、従来は難しかった材料系でも単結晶膜を得て、異なる基板へ移植してデバイスに使うような応用が広がる可能性があります。過去のリモートエピタキシー研究は発光ダイオードや柔軟な光検出器などの応用例も示しており、対象材料が増えれば応用の幅も増す期待があります。
重要な注意点もあります。著者自身が指摘するように、リモートエピタキシーの駆動機構には依然として基礎的な問いが残っています。本研究は実験とDFT計算で「導電性+段差密度」が鍵であることを示しましたが、条件(ビシナル角、段差密度、成長法など)によっては成長がうまくいかない例もこれまで報告されています。従来、SiやGe上のグラフェン越しでは多くの場合多結晶や分断した島状成長になっていました。本論文はその制約を大きく緩める一歩ですが、普遍性や最適条件の詳細、そして完全に確定したメカニズムについては今後さらに検証が必要だとしています。