BelleとBelle IIが見た「見えない」粒子を伴う希少B崩壊の最新検索
日本のBelleとその後継実験Belle IIは、電子陽電子衝突で作るB中間子のデータを使い、ニュートリノなどの「見えない」粒子を伴うごく稀な崩壊や、標準理論で禁止されるレプトン味(フレーバー)違反崩壊の探索を行いました。解析に使ったデータは総計で約1.2アトバーン(ab−1)に相当し、Belleの711fb−1とBelle IIの365fb−1のサンプルが主に利用されました。Υ(4S)共鳴で作られるB対は追加の背景が少なく、片方のBを完全に再構成してもう片方の崩壊から失われたエネルギーを推測する「タグ付け」法が使いやすい環境です。タグ付けには効率の高い包摂(インクルーシブ)法と、精密だが効率が低いハドロニック完全再構成(FEI)法の二種類があります。今回の結果は、それらの手法と機械学習を組み合わせて得られました。
まずB+→K+νν̄の再解析では、362fb−1のデータに基づき、包摂法とハドロニック法を組み合わせて最初の「証拠」を得たと報告しています。信号選択には二段のブーステッド決定木(BDT)を用い、観測変数として変換したBDT出力と四運動量取り替えに相当するq2を用いて多次元でフィットしました。さらに得られたデータを「弱い有効理論(WET)」という枠組みで解釈し、ベクトルやスカラー、テンソルと呼ぶ型の寄与を表すパラメータ(ウィルソン係数)を推定しました。最尤点や95%の信用区間が示され、ベクトル成分の増強と非ゼロのテンソル成分がデータをよく説明することがわかりました。ただし、B+→K+νν̄の観測の有意性は3.3σ(シグマ)であり、確定的な発見には至らない点に注意が必要です。
Belle IIによる包摂的なB→Xsνν̄探索では、標準模型の予測分岐比が2.9×10−5と精度良く計算されているのに対し、今回の解析はハドロニックタグと多様なKsを含むXs再構成を用いて背景校正やBDTの較正を行い、最終的に総合での上限を3.6×10−4として示しました。これは包摂的チャネルに対するこれまでで最も厳しい上限です。解析ではオフ共鳴データやJ/ψ制御サンプルを使って背景正規化やBDT効率の較正を行い、システムatics(系統的不確かさ)はシミュレーションの有限サンプル数や主要なB崩壊分岐比、信号モンテカルロ生成などから評価しています。
τ(タウ)レプトンを含むb→sτ+τ−探索と、レプトン味違反(LFV, 例えばτとμが混ざる)検索も行われました。B0→K*0τ+τ−の探索ではハドロニックタグと多変量手法を用い、顕著な信号は見つからず、90%信頼区間での上限を1.8×10−3としました。これは以前のBelle結果より約2倍厳しい制約で、より強力なタグ付けと解析手法が効果を示しています。さらにB0→K0Sτ±ℓ∓(ℓ=e,μ)やB0→K*0τ±ℓ∓のLFV探索では、BelleとBelle IIのデータを合わせて初めてK0Sチャネルの上限を報告し、報告された範囲は(0.8–3.6)×10−5でした。標準模型ではこれらのLFV崩壊は起こらないため、観測された場合は新しい物理の強い手がかりになりますが、一部の新理論では最大で10−6程度の確率が予想されるため、今回の上限はまだそこまでの感度には達していません。
重要な留意点として、これらの解析は多くの場合「信号なし」の場合に上限を与える形式で終わります。ハドロニック完全再構成は背景抑制に優れますが効率がとても低く(典型的に1%未満)、解析はシミュレーションへの依存やBDTの較正、主要背景のモデル化に敏感です。B+→K+νν̄の3.3σは興味深い兆候ですが、統計的・系統的不確かさの観点からは確定的な発見とはみなされません。今後のBelle IIでのさらに大きなデータ取りと改良された解析手法が、これらのチャネルで新物理の有無をより明確にすることが期待されます。