モデルの不確実性を恐れると温室効果ガス削減はより急速になると示唆—100の統合評価モデルで検証
この論文は、複数の気候経済モデルの不確実性を考慮したときに、損失を避ける意思決定を選ぶことで二酸化炭素(CO2)排出の削減がより急速になることを示します。研究者たちは、期待値を最大化する従来の判断基準から「後悔を避ける」判断基準に切り替えると、より厳しい短期的な緩和策が導かれると報告しています。
研究チームは、統合評価モデル(Integrated Assessment Models, IAMs:経済と気候の両方を結びつけて将来を評価するモデル)をもとに、100通りのモデル構造を作成しました。各モデルは社会経済、気候、削減コスト、気候損害の四つのモジュールで構成されます。各構造について、パラメータのばらつき(浅い不確実性)をモンテカルロ法でサンプリングし、それぞれのモデルで期待的厚生を最大化する最適な緩和経路を求めて、合計100の候補政策を作りました。
意思決定の枠組みとしては「最大後悔最小化(minimax regret)」を採用しました。これは、各将来像ごとに最良の政策と自分の選んだ政策の差(後悔)を考え、最も大きな後悔を最小化する政策を選ぶ方法です。この手法を使うと、モデルを均等に平均する方法とは異なり、弱い緩和を選んだときに生じうる一方向の大きな損失に対して慎重になります。
主要な結果として、後悔回避の判断基準を用いると、より速い脱炭素化が示されました。最も頑健(ロバスト)と評価された政策は2050年までに完全脱炭素化を達成します。検討した将来像の下での平均的な地球平均気温上昇は産業化前比で約2.2°Cに抑えられるとされています。研究者らは、この厳しい政策が「高い排出シナリオ」と「高い損害関数(温度と経済被害の関係)」が重なった場合のリスクを避ける予防的な選択だと説明しています。
なぜ重要かというと、政策立案者は多様なモデルと多くの不確実性に直面しています。論文の手法は、各モデルに確率を割り振らなくても複数モデルの結果を比較し、どの政策が幅広い未来で「最悪の後悔」を小さくできるかを示します。こうした分解された出力は、どの不確実性が判断にとって重要かを明らかにします。著者らは、損害関数の形や将来の人口・経済成長(国内総生産:GDP)・排出の見通しに関する不確実性が、過小削減(under-abatement)から生じる非対称的な後悔を生み、慎重な対策を促す主要因であると指摘しています。
ただし重要な注意点もあります。本研究は100のモデル構造と選んだ厚生関数の下での解析に基づきます。どのモデルを含めるかや政策評価の基準(期待値最大化か後悔最小化か)といった規範的な選択が結果に影響します。論文も、あえて簡潔なロバスト手法を採ることで議論の一部に焦点を当てていると述べており、不確実性の扱い方や曖昧さ(アンビギュイティ)を巡る理論的議論は続いています。したがって、この結果は政策設計の有力な示唆を与えますが、万能の解答を示すものではないことに注意が必要です。