アフリカの大規模土地取得(LSLA)は地域の抗議を増やすと研究 国内エリートによる「奪取」が主因の可能性
この論文は、アフリカで行われた大規模土地取得(LSLA:大口の土地売買やリース)が地域の市民不安を増やすかどうかを調べています。著者は、実際に実施された1,391件の土地取引を分析し、実施された案件は取得前の平均と比べて市民抗議(デモや暴動)の発生が約158%増えたと報告しています。これは場所ごとに年平均で約1.48件の抗議・暴動が観測されるという大きさで、実施前の平均0.94件と比べて有意に高い数字です。
研究者は、成功した案件と「投資側の事情で実施されなかった失敗案件」を比較する方法を使いました。比較対象は1997年から2025年までの38か国にまたがる地理座標付きデータです。対照群に「未実施の案件」を選ぶことで、もともと土地が選ばれやすいという問題(選択バイアス)を減らそうとしています。紛争データはACLED(武装紛争位置事象データ)を使い、段階的差分の推定法で時間的な変化を追っています。著者は並行トレンドの検証や、感度分析(Rambachan and Rothの境界法)も行い、結果の頑健性を確かめています。実施前に地域住民の抵抗を示す証拠がある失敗案件の19.1%は分析から除外しています。
重要な発見は「一様な効果ではない」ことです。抗議の増加は特に国内の投資家が共同体の土地や国有地を、主に食用作物のために取得した場合に強く出ます。ここで登場するのが「エリートの収奪(エリートキャプチャ)」という考え方です。多くの国では土地は慣習的に共同体が使ってきた一方で、国家は登記されていない土地を法的に支配できると主張します。この制度的なあいまいさを利用して、政治的につながりのある国内勢力が上から形式的な権利を設定し、共同体の同意や補償を回避してしまう。そうした場合に抵抗が起きやすいと著者は指摘します。
論文は補助的な証拠も示します。6回分のAfrobarometerパネル調査を合わせた分析では、LSLAの影響を受けた地域で伝統的指導者への信頼が下がり、問題解決のために伝統的指導者に連絡する頻度も減っています。メディア分析(GDELT)では、実施地域の近くで所有権や汚職、農業に関する報道が増えています。さらに選挙データ(CLEA)では、実施地域の選挙区で野党の得票率と投票率が上がり、在任者に対する罰則的な投票はやや弱いが不安定になる傾向が見られます。これらは、土地紛争がメディアや正式な政治参加を通じて表に出る様子と整合します。
留意点と限界もあります。著者は因果推定の問題に注意を払い、多数の検査や対策を行っていますが、データや識別戦略がすべての選択バイアスを完全に取り除けるとは限りません。また、本研究が測るのは主として抗議や暴動といった「市民不安」であり、致命的な武力衝突の増加を直接示すものではありません。効果は投資の種類や投資主体によって異なります。論文は、国外企業向けのESG(環境・社会・ガバナンス)基準に偏った政策では、政治的に結びついた国内勢力による土地取得というギャップが残りやすい点を指摘しています。政策設計では、土地の法的あいまいさと地域の同意の欠如をどう防ぐかが核心的な課題だと、この研究は示しています。