トーラス上で証明:与えた時間依存一粒子密度に合う外部ポテンシャルは一意に存在する
この論文は、与えられた十分に滑らかな「時間変化する一粒子密度」に対して、それを生み出す外部ポテンシャルが存在し、(時間に依存する定数を除いて)一意であることを証明しました。つまり、多体シュレーディンガー方程式の解が指定した密度を与えるように外部ポテンシャルを選べる、という逆問題に答えています。これは時間依存密度汎関数理論(TDDFT)と、TDDFTに基づくコーン=シャム(Kohn–Sham)法の理論的根拠にかかわる重要な結果です。論文はクーロン相互作用(電子間の通常の反発)と拡張された核(点核ではない)を含む場合を扱います。
研究者たちは次の問題を解きました。初期の多体波動関数と、目標となる時間依存一粒子密度が与えられたときに、どの外部ポテンシャルを時間的に与えればその密度を持つ波動関数が得られるかを構成します。得られる外部ポテンシャルは時間に依存する定数を除いて一意です。対象とする系は周期的境界条件を持つボックス=数学的に言えばトーラス上の粒子系で、説明はスピン無視のフェルミオンで書かれていますが、スピンを含めても同様の結果が成り立ちます。
技術的に難しいのは「導関数の喪失」と呼ばれる現象です。密度からポテンシャルを求める従来の式(物理界で言うvan Leeuwenの力のつり合い式)は、右辺に高次の空間・時間微分を含み、これが固定点法など標準的な手法を妨げます。本論文ではその式を書き換え、外側の微分が反転(楕円型演算子の逆)される形にして、実際には導関数の喪失を一段に抑えられることを示しました。逆演算子の制御は密度がどこでも零から離れていることを仮定することで容易になり、これがトーラス上で扱う理由の一つです。解の構成には解析的関数論に基づく手法(コーシー=コヴァレフスカヤやナッシュ=モーザーの考え方)を用いていますが、クーロン斥力が引き起こす二電子の接近点での「カスプ(角のような特異性)」のために波動関数全体を空間解析的に扱うことはできません。そこで著者らは重心座標に関してのみ解析性を仮定するという工夫を導入し、それが必要な項の解析性を確保するのに十分であることを示しました。
この結果が重要なのは、TDDFTの中心的仮定――「密度と初期状態だけで系の時間発展を一意に決められる」――を連続体のクーロン相互作用を含む実例で初めて厳密に裏付けた点です。特に、相互作用する系の時間依存密度を、相互作用のない(すなわち計算しやすい)コーン=シャム方程式で再現することが理論的に可能であることを意味します。著者らはさらに、この逆問題の解を用いて、未知の多体密度を明示的に含まない自己完結型の非線形コーン=シャム方程式を構成できることを示しています。
重要な制約と今後の課題も明確にされています。解析的空間依存性のある外部ポテンシャルや、密度が全空間で零にならないこと、さらに核は拡張体で点核は扱わないという仮定が必要です。波動関数は一般に全座標で解析的ではなく、重心方向のみの解析性を用いる点も結果の前提です。地上状態(基底状態)に対する同様の存在証明や点核への拡張、そして実際に逆ポテンシャルを数値的に計算するための収束保証付きアルゴリズムの構成は今後の重要な課題として残っています。