微視的手法で冷融合を再検討:208Pbを軸にしたエネルギー谷が合体とクラスター崩壊をつなぐ
この論文は、超重元素の合成過程の不確かさを減らすために、核の微視的な計算と拡散モデルを結び付けた新しい枠組みを提案します。研究者たちはハートリー–フォック–ボゴリューボフ法(HFB:核の平均場と対を同時に扱う微視的手法)で作ったポテンシャル・エネルギー面(PES:核の形に応じた系全体のエネルギー地図)から、融合の開始点と内部障壁という重要な入力を自己一貫的に取り出し、拡散モデル(FBD:fusion by diffusion)に渡して合体確率を計算しました。代表例の反応48Ca+208Pbでは、得られた蒸発残留断面積(実験で測る成功率に相当する値)をおおむね再現しています。
彼らの計算では、核形を表す3つの変数を使ってPESを制約付きHFBで作りました。これらは伸び(楕円度に相当)、質量非対称性(片側が重いか軽いかを示す)、首の太さ(接触部のつながり具合)です。HFBは単独運動と対形成(核の「超流動性」に関連)を同時に扱えます。PESからは、接触後にどの形で「首」ができて合体に向かうか(注入点)と、そこから合体に至るまで越えねばならない内部のエネルギー障壁が直接得られます。これらを拡散確率として扱うことで、従来は経験的に調整していた部分を減らせます。計算にはSkM*というエネルギー密度汎関数と、対相関の扱いにLipkin–Nogami近似を用いています。
PESの特徴として、208Pb(27個の陽子ではなく、殻閉じにより特に安定な標的核)が軸になった「超非対称な谷」が現れます。この谷は入射した二つの核の結合から化合核(完全に合体した核)への道筋を示す一方で、逆向きにはクラスター崩壊(親核が比較的大きな塊を放出する崩壊)への出口にもなります。実際、冷融合過程では接触時に短時間で首が成長する「ネック・ジップ」機構が働き、系はこの208Pbに導かれた谷を辿ります。論文はこのことから、冷融合はクラスター崩壊の逆過程と考えられると整理しています。
具体的な成果として、48Ca+208Pb反応の蒸発残留断面積を合理的に再現しました。さらに、他の冷融合候補である54Cr+208Pbと58Fe+208Pbについても計算し、合体確率PCN(compound nucleus formation probability)が化合核の電荷数Zに対してほぼ指数的に減少する傾向を得ました。これは既存の経験則とも整合します。一般に合体確率は非常に小さく(PCN ≪ 1)、これが超重元素合成の成功率を大きく抑えている主因です。
重要な注意点もあります。本手法は融合段階の不確かさを減らすための重要な前進ですが、全体の予測には他の要素も関わります。捕獲断面や化合核の生存確率(中性子蒸発やγ放出と競合する核分裂の扱い)は別のモデル(ヒル–ホイーラー式や統計模型)で計算しており、これらの入力にも不確かさが残ります。また、今回の結果はSkM*という特定の汎関数や軸対称形状などの近似に依る点も留意が必要です。論文は、こうしたモデルの選択と近似を明示したうえで、微視的PESに基づく自己一貫的な扱いが融合段階の不確かさを減らす有望な手段であると結論づけています。