紫外線分光で見えた中性子捕獲の痕跡:Zr豊富なLSIV−14◦116とPb豊富なEC22536−5304を解析
この論文は、重い元素が極端に多い「重金属」ホットサブドワーフ星の大気に中性子捕獲による元素合成(核合成)の痕跡が残っていることを示します。研究者たちは、ジルコニウム(Zr)に富むLSIV−14◦116と鉛(Pb)に極端に富むEC22536−5304の初めての遠紫外線スペクトルを詳しく解析しました。両星とも表面に通常より何千〜何万倍も多い重い元素が見つかり、それが単なる拡散(元素の沈降や浮上)だけでは説明できないことを示しています。
観測にはハッブル宇宙望遠鏡のSTIS装置によるE140Mスペクトルを用いました。波長は1143–1730Åで、分解能はR≈45800、中央値の信号対雑音比は約20でした。さらに、可視・近紫外の高分解能スペクトル(UVES、R≈40000、LSIVはS/N≈200、EC22536はS/N≈50)も併用して、可視域にしか現れない金属線の制約を得ました。
データ解析では既存の線リストに無い多くの多価イオン(III–VI)の遷移が現れたため、研究チームは文献のエネルギー準位や波長、振動強度(オシレーター強度)を集めて自前の線リストを拡張しました。不足していたAs III、Se III、Hf IV、Tl IVの振動強度は計算で新たに求め、Pb III–VIについては光電イオン化断面を新たに作成して、多価の鉛に対する非熱力学平衡(non-LTE)モデルを初めて構築しました。
結果として、LSIV−14◦116ではGaからBiまでの16種の軽元素と24種の重元素を検出し、Br, Nb, Mo, Pd, In, Sb, Te, Xeがこの型の星で初検出となりました。EC22536−5304では13種の軽元素と26種の重元素を検出し、La, Ce, Pr, Nd, Er, Yb, Lu, Hf, Ta, W, Os, Pt, Hg, Tl, Biの初検出が含まれます。元素過剰の度合いは定量的で、LSIVはSr–Snで太陽の約10^4.3倍(約4.3デクス)に達し、Pbでは約3.1デクス、Biで約2.3デクスでした。対してEC22536−5304はPbで約6.2デクス、Biで約5.4デクスとさらに極端で、両星とも鉄(Fe)は不足(−0.8と−2.5デクス)しています。解析者は、これらの分布が原子拡散だけでは説明できず、核合成の署名を保持していると結論づけています。
特にEC22536−5304の元素分布は「i過程(インターメディエイト過程)」と呼ばれる中性子捕獲過程の理論予測に非常によく一致します。この過程は、中性子密度がs過程(ゆっくり)とr過程(急速)の間にある条件で進む核反応で、重元素をビスマス(Bi)まで作ることができます。EC22536−5304は伴星がいる二重星系で、457日という長周期と伴星の金属量([Fe/H]≈−2)からロッシュローブ越え(Roche-lobe overflow)による進化で形成された可能性が高く、その環境でi過程による「自己合成」が起きたことを強く示唆します。対照的に、LSIV−14◦116は低質量白色矮星同士の合体で生まれた可能性が高く、異なる進化経路が異なる元素分布の理由になり得ます。
ただし注意点もあります。遠紫外領域には多価の重元素線が多数あり、標準的な線リストが不完全なため、全ての遷移を網羅できたわけではありません。論文でもさらに原子データを精緻化する作業や、独立手法との比較を今後報告するとしています。また、i過程との一致はモデルとの比較に依存するため、完全な決定打ではなく「強い証拠」を示すものだと留意すべきです。それでも、この研究は重金属をもつHe(ヘリウム)豊富ホットサブドワーフが外部から単に元素を取り込んだのではなく、自らの進化過程で重元素を作り上げる可能性があることを示す重要な一歩です。