ニューラルネットで設計する量子磁性:最適な結合から新しいスピン液体候補を発見
この論文は、材料の目標となる性質を満たす微視的な結合(ハミルトニアンのパラメータ)を逆に見つける方法を示します。研究者たちは「Foundation Neural-Network Quantum States(基盤ニューラルネット量子状態、FNQS)」という、複数のハミルトニアンの基底状態を一つの可変波動関数で表す新しい手法を使いました。波動関数が結合を明示的に受け取るため、求めたい性質は結合の関数になり、その勾配を使って結合を直接最適化できます。ここでは「磁気秩序がない」状態、すなわち量子スピン液体(QSL)を探すことを目的にしています。量子スピン液体は長距離の量子もつれを持ち、通常の局所的な秩序で記述できない興味深い相です。
研究の手順は二段階の反復です。まず現在の結合の近傍で波動関数を変分モンテカルロ(VMC: Variational Monte Carlo)で訓練し、複数のハミルトニアンの基底状態を同時に近似します。次に、その訓練済み波動関数から目的とする物理量(ここでは磁気秩序の強さ)の結合に対する勾配を計算し、勾配法で結合を更新します。これを繰り返すことで、候補空間全体を格子で試すことなく最適なハミルトニアンに近づけます。応用先として、方格格子(スクエア格子)のフラストレート(競合する結合を持つ)Heisenbergスピン模型を段階的に拡張し、次近接結合や単位セル内の最大8つの独立結合を自由にして探索しました。
具体的な成果として、単一の自由結合に制限した場合は従来よく知られたJ1–J2 Heisenberg模型の非磁性領域(磁気秩序が消える窓)を再現しました。対角方向の二つの結合を独立にすると、スクエア格子と異方性三角格子の候補領域をつなぐより広い非磁性領域が見つかりました。さらに、2×2の単位胞で8つの独立結合を探索すると、最適化は自発的に結合を二群に分け、隣り合うプラケットで対角結合が交互に異なるJ1–J2–δ模型(対角結合が格子上で交互に変わる模型)に収束しました。この模型は最近アルターマグネティズム(altermagnetism)の文脈で提案されたものです。
最適と判定されたその模型について、研究者らは最大16×16の有限サイズ格子で有限サイズスケーリングを行いました。その結果、磁気秩序もダイマー(結合二体化)もプラケット秩序も検出されず、熱温度0での基底状態にこれらの局所的な秩序がないことが示唆されました。したがって、この最適模型は従来のスクエア格子で提案されたものとは異なる新しい量子スピン液体の候補として挙げられます。興味深い点は、単純に8次元の自由な探索を与えただけで、空間的な構造(交互に異なる対角結合)が制約なしに現れたことです。
重要な注意点もあります。FNQSは変分波動関数に基づく近似法です。したがって結果は波動関数の表現力と使った格子サイズに依存します。論文の結論は最大16×16までの有限サイズのスケーリングと変分的評価に基づくものであり、無限体積極限での厳密な証明ではありません。さらに、真の基底状態や励起の性質を確定するには、他の数値手法や実験的検証も必要です。それでも本手法は、結合を入力に取る波動関数の利点を生かして、強相関量子系の逆問題を効率的に扱える枠組みを示した点で意義があります。