チェーン・シーソーで中性ニュートリノと電荷フェルミオンの質量を同じ仕組みでつくる提案 — 高品質なアクシオンを自動的に含むモデル
この論文は、「チェーン・シーソー」と呼ぶ新しい仕組みを提案します。目的は、中性ニュートリノだけでなく、普通の荷電フェルミオン(クォークや電子など)の質量も同じ基本的な仕組みで説明することです。標準模型に新たなU(1)_{Y'}というゲージ対称性を加えます。さらに、この追加対称性の中にペクシー–クイン(Peccei–Quinn, PQ)というグローバル対称性が自動的に含まれます。PQ対称性の自発的破れから現れる粒子が「アクシオン」であり、提案ではその「品質(品質問題)」が保たれるとしています。アクシオンは強い相互作用のCP対称性問題(strong CP問題)を解く候補です。
著者は、標準模型の通常の一次のヤカワ結合(ヒッグスと直接結びつくことで質量を与える結合)を、新しいゲージ対称性で禁止しました。その代わりに、右巻きニュートリノ(右手型のニュートリノ)、重いベクトル様フェルミオン(左右両方の成分をもつ重い媒介粒子)、および新しいヒッグスのスカラー(ヒッグス・シングレット)を導入します。標準ヒッグスはこの新しいU(1)_{Y'}の電荷を持たない設定です。媒介粒子とスカラーはU(1)_{Y'}電荷を持つため、複数の段階(チェーン)を経て標準模型の左手型と右手型フェルミオンがつながります。ダウン型クォークとアップ型クォークではチェーンの「リンク数」が異なります。これは媒介粒子とスカラーの電荷割り当てが違うためです。
仕組みを大まかに説明すると、標準模型の左手フェルミオンは第一の媒介フェルミオンに結びつき、第一の媒介は第二の媒介に、…という具合に連鎖して最後に右手フェルミオンとつながります。各段で新しいヒッグス・シングレットが関わり、そのシングレットが真空期待値(場が非ゼロの値をとること)を持つと、高次元の有効演算子が生成されます。有効演算子は標準ヒッグスとの間に実質的なヤカワ結合を作り出します。最終的に標準ヒッグスが真空期待値を持つと、ニュートリノやクォーク、電子などにディラック質量(左右が異なるタイプの質量)が与えられます。著者はこの仕組みがニュートリノの質量生成だけでなく、荷電フェルミオンにも適用できることを示しています。また、モデルは「ニュートリノ生成(neutrinogenesis)」と呼ばれる宇宙の物質–反物質非対称性の生成過程にも対応できると述べています。
重要性は二つあります。ひとつは、ニュートリノと荷電フェルミオンの質量生成を同じ種のシーソー機構(連鎖型のメディエーターによる生成)で説明する点です。もうひとつは、PQ対称性(アクシオンの源)が新しいゲージ対称性に自然に組み込まれ、これが「アクシオン品質問題」を回避する助けになると主張している点です。アクシオン品質問題とは、本来は極めて精密に守られるべきPQ対称性が、重力などの効果で破れやすくなり、アクシオンによる強いCP問題の解決が台無しになる恐れがあるという問題です。著者はゲージ不変性の要請があれば、この問題を十分に抑えられると述べています。
ただしいくつかの注意点があります。提案は理論モデルであり、新しい重い媒介フェルミオンや複数のヒッグス・シングレットといった未発見の粒子を仮定しています。PQ対称性が本当に重力起源の高次元効果に対して安全かどうかは、割り当てや追加場の選択に依存します。論文抜粋ではヒッグス・シングレットの電荷割り当てに複数の選択肢が示されており、具体的な実験的予測や数値解析の詳細は抜粋に含まれていないかもしれません。また、アクシオン自体はいまだ観測されておらず、本モデルも実験的検証を要します。さらに、この要約は論文の抜粋に基づいているため、完全な議論や派生的な制約は元論文を参照する必要があります。