「一方通行関数なしで量子の擬似乱数を作る」は簡単ではないと示す新しい手法
この論文は、量子暗号で重要な疑問に答えようとしています。具体的には、「量子の世界で一方向関数(逆算が難しい関数)を使わずに、一方向性や擬似乱数的な振る舞いを作れるか」という問題です。著者らは新しい解析手法を導入し、多くの既存の提案が実は一方向関数や計算困難性(NP困難)を暗に含んでしまうことを示しました。これにより、いくつかの案は当初の目的を達成していない可能性が明らかになりました。
著者らが導入したのは「効率的なNP支援シャドウ・トモグラフィ(影の測定)」という技術です。ここでNPとは非決定性多項式時間(NP)という計算複雑性のクラスです。シャドウ・トモグラフィは量子状態の全体像を完全に復元せずに、特定の性質を効率よく学ぶための測定法です。論文では「計算可能な純状態」と呼ぶ特殊な状態族を定義しています。これは、状態を作る回路の説明が与えられれば、各基底成分の振幅や位相を古典計算で効率よく求められる状態を指します。
研究で示された主な結果は二つあります。第一に、計算可能な純状態の族は、効率的なNP支援シャドウ・トモグラフィによって学習できることを証明しました。第二に、多項式個の問い合せ(クエリ)を与えられた場合に、NP支援でユニタリ演算(量子回路の一種)を学習する新しいアルゴリズムも提示しています。要するに、NPの助けがあれば、ある種の量子状態や量子操作が思ったよりも「見つかってしまう」ことがある、ということです。
この技術を使って、著者らは既存の擬似乱数源の設計を検討しました。その結果、いくつかの構成は当初「一方向関数を使わないこと」を目指していたにもかかわらず、実際には一方向関数の存在を導いてしまうか、あるいはNP困難性を仮定することと同等の強い前提を含んでいることが分かりました。論文は例として、Hamiltonian Phase States(Bostanciら、TQC 2025)などの案がその対象であると挙げています。これは、将来の設計がどの仮定に依存しているかをより慎重に扱う必要があることを示しています。
重要な注意点として、本成果は「計算可能な純状態」や「NP支援」を前提にしています。したがって、すべての量子擬似乱数の構成が否定されるわけではありません。結果は多くの既存案が望まぬ形で一方向性やNPの困難性に結びつく可能性を示す条件付きの「ノーゴー」結果です。また、この解析手法が扱える対象は論文で定義された可算なクラスに限られます。著者らはこうした結果が、NPの外にあると考えられる新しい仮定に基づく構成の探索を促すことを期待しています。付記として、論文作成過程で文章の編集や形式化の補助に生成系AIツールが使われたことも明記されています。