欧州XFELで約100アト秒・ピーク出力10テラワットの軟X線パルスを生成
この論文は、欧州X線自由電子レーザー(European XFEL)で約100アト秒(1アト秒=10⁻¹⁸秒)という非常に短い時間幅と、ピーク出力でおよそ10テラワット(TW)という高出力を同時に備えた軟X線パルスを得たことを報告しています。短く強いパルスを作るために、従来の卓上光源では得られない非常に高いピーク電流を持つ電子ビームを使う点が特徴です。研究者たちはこの組み合わせを「ミリジュール級のアト秒X線パルス」として位置づけています。
研究チームは欧州XFELの設備と独自のビーム圧縮法を用いました。電子はレーザー駆動のRFガンで生成され、まず130メガ電子ボルト(MeV)まで加速され、そこから主線形加速器で最終的に14ギガ電子ボルト(GeV)まで上げられます。実験では合計で5段の圧縮ステージを使って電子パルスを非常に短く押し縮め、1回のパルスに入る電子の電荷は350ピコクーロン(pC)という設定でした。短い、強い電子ビームを磁場の周期構造(ウンドゥレータ)に通すことで、ビーム中の微小なゆらぎが増幅されて強いX線パルスが放射されます。これは「自己増幅自然放射(SASE)」と呼ばれる仕組みで、成功には高いピーク電流、低いエネルギー分散、そして良好なビーム形状が必要です。
仕組みを平易に言うと、電子ビームを長さ方向に圧縮して一時的に極めて高い密度にします。圧縮では、加速の際にわずかにエネルギーを前後で変える(エネルギーチャープ)手法や、高次の長さ方向の性質を利用します。特にこの研究では、通常は圧縮に使わないコリメータ(ビームを絞る装置)に存在する第2次の長さ方向分散を利用して追加の圧縮を行いました。こうして得た超高ピーク電流の電子ビームを軟X線用ウンドゥレータ(SASE3)で鳴らすことで、波長が短く、時間幅が約100アト秒、かつピーク出力が10TW級というパルスが得られたと報告されています。
この成果が重要な理由は、電子の自然な動きが起きる時間スケールで物質を直接観測できる点にあります。従来の高次高調波発生(HHG)を使った卓上アト秒源は時間幅で優れますが、パルスエネルギーやピーク出力が小さいため、強い非線形反応や短波長での実験に限界がありました。フリー電子レーザー(FEL)を用いることで、より高いエネルギー領域や強い駆動領域でのアト秒科学が開けます。本研究により、より強い励起や新しい実験手法への道が拓かれる可能性があります。
ただし重要な注意点もあります。SASEは元が電子ビームのノイズから立ち上がる過程であるため、ショットごと(パルスごと)に形が変わりやすく、複数のピーク(スパイク)が出る確率もあります。論文中でも、アト秒パルスが「単一の支配的スパイク」を持つ場合が高いことと、確率的に数スパイクになる場合があることが述べられています。また、今回の方法は非常に強い圧縮と複雑なビーム操作、そしてコリメータのような施設特有の構造を利用しているため、同様の手法を別の加速器にそのまま移すのは簡単ではありません。加えて、圧縮中に現れる長手方向の空間電荷や同期放射といった集団効果がビーム品質に影響を与えるため、安定運用やショット間の再現性を高めるための追加の検討が必要です。
まとめると、欧州XFELの装置と五段圧縮を組み合わせることで、短時間かつ極めて高出力の軟X線アト秒パルスの生成が報告されました。これはアト秒科学をより強い励起や短波長へと拡張する重要な一歩です。とはいえ、ショット間変動や装置固有の要件など、実用的な利用に向けた課題は残っています。