炭素オフセットの「市場全体の影響」を分析すると効果はあいまいに——経済全体モデルで過大/過少評価の両方が起きうると指摘
この論文は、炭素オフセットが経済全体にどんな影響を与えるかを、解析的な一般均衡モデル(市場全体の相互作用を考えるモデル)で調べたものです。著者たちは、オフセットの価格を上げると排出量や人々の福利(厚生)に与える影響が一義的でないことを示します。つまり、オフセットが増えても排出が必ず減るとは限らず、場合によっては増えることもある、という点を主張しています。加えて、一般に使われる炭素の計測方法が誤ってオフセットを過大評価することが多い一方で、過少評価が起きるケースもあると指摘します。市場の波及効果(スピルオーバー)を無視できないというのが主な結論です。
研究者たちは、再現可能な簡潔な一般均衡モデルを作りました。モデルには「クリーン(再生可能)入力」と「ダーティー(化石)入力」の二種類を入れます。オフセット販売はクリーン入力への補助金の役割を果たします。政府が唯一のオフセット購入者と仮定し、オフセットの価格変化がクリーンとダーティーの生産、最終消費財の生産、そして経済全体の排出量にどう影響するかを閉形式で解きます。さらに、現実的な米国のパラメータを用いた数値実験でも結果を示しています。
論文は二つの炭素会計の指標を比較します。一つは「従来の炭素会計」で、オフセットを与えたプロジェクトの直接的な排出削減だけを信用する方法です。もう一つは「集計的炭素会計」で、特定のプロジェクトが存在することによる経済全体の排出変化(直接・間接の双方)を測ります。解析と数値の両方で、従来の会計はしばしば過大にクレジット(過剰評価)することが示されます。その原因は、オフセットが他の価格や数量を動かし、下流での排出に影響を与えるからです。ただし例外もあり、従来の会計が過少評価するケースも存在します。論文で新たに指摘する追加の「マージン(反応経路)」の一つは、従来は非追加的(オフセットがなくても起こったと判断される)と見なされたプロジェクトが、オフセット価格の上昇で稼働率や生産量を増やし、そこから生じる実際の排出削減が従来の会計に反映されない場合です。
福利(社会的な満足度や効用)の面でも単純ではありません。排出量が減れば常に福利が上がるわけではありません。論文は、オフセットには補助金的な側面があり、その支払いのために政府は収入を得る必要があると仮定します。収入を確保するための課税や、補助金による価格歪みが最終消費の減少を招きます。したがって、排出が減ることは福利向上の必要条件だが十分条件ではないと結論づけます。さらに、一般均衡の相互作用により「バックファイア(逆効果)」が起き、オフセットが導入されることで経済全体の排出が逆に増える可能性もあると示しています。
重要な注意点です。本研究は分析しやすくするために単純化したモデルを用いています。政府を唯一のオフセット買い手とする点や、入力を二種類に絞る点など、現実の市場とは異なる仮定があります。数値例は「妥当と思われる米国の値」で行われていますが、結果はパラメータ設定に依存します。論文自身も、従来のプロジェクトごとの追加性(そのプロジェクトがオフセットなしで実現したか否か)を巡る既存の議論と接続しつつ、市場全体の波及効果を会計や政策評価に取り入える必要があると提言しています。提供された抜粋は論文全体の一部にとどまる可能性があるため、詳細な結論や実証結果の解釈には原論文の全文を参照することを勧めます。