PandaX‑4Tが太陽の「pp」ニュートリノフラックスを新データで測定 低エネルギーで初めての前向きな示唆
この論文は、PandaX‑4T実験の新しいデータを使って太陽で最初に起きる水素融合反応(プロトン–プロトン、pp)から出るニュートリノの流れ(フラックス)を測った報告です。2024年から2026年のRun 2データ(実効露出1.9トン・年)と以前のRun 0データを合わせた解析で、得られたppフラックスは(8.5 ± 3.5)×10^10 cm^-2 s^-1でした。これは標準太陽モデルの予測と整合します。電子散乱で再検出した信号について、背景を差し引いた上での有意度は2.2σで、電子反跳(電子が受け取るエネルギー)が165 keV未満の領域について「初めての前向きな示唆」としています。ただし2.2σは決定的な検出とは言えません。
PandaX‑4Tは中国・金坪地下研究所にある液体キセノン(LXe)時間投影チャンバー(TPC)です。粒子がキセノン中で起こす瞬間の発光(S1)と放出された電子による二次発光(S2)を両方計測し、時間と光のパターンから三次元で位置を復元します。これにより外部や表面からの背景を減らせます。Run 2は2024年7月5日から2026年1月23日までの438日分のライブ時間で、検出器のカソード交換や光反射性を高めたパネルの導入、読み出し回路の刷新(14ビット、500 MS/sの新しいデジタイザでトリガーレス読み出し)など複数の改良が施されました。これらにより低エネルギーの信号をより敏感に捉えられるようになっています。
低エネルギー領域では放射性不純物が大きな背景になります。研究チームは実際の物理データとガス解析装置の測定を組み合わせて、希ガス不純物の時間変動を制約しました。特にラドン‑222の低減が重要で、蒸留装置を逆モードで運転してラドン濃度を最小で2.9 ± 0.1 µBq/kgまで下げました(以前の平均は約8.7 µBq/kg)。一方でアルゴン‑39はRun 2で濃度が高めに出たため、通常モードでのアルゴン蒸留を行い、データを高アルゴン期間(233.8日、39Ar活性0.74 µBq/kg)と低アルゴン期間(204.2日、0.10 µBq/kg)に分けて扱っています。これらの対策が低エネルギーの電子反跳バックグラウンドを抑えるのに寄与しました。
解析面では、データ処理のチェーンを統一してS1を単一光電子ヒットまで識別できるようにしました。またS2の重なり(パイルアップ)判別も改善し、エネルギー範囲20–1000 keVの電子反跳スペクトルをブラインド(結果を見ない設定で)で評価しました。ppニュートリノはエネルギー端点が約420 keVで、低エネルギー領域の測定はニュートリノの振動や太陽モデルの検証に直接結びつきます。液体シンチレータを使ったボレックスィーノ(Borexino)の結果と補完関係にある手法です。
重要な注意点は、今回の結果が示すpp信号は統計的有意度が2.2σであり、まだ確定的な発見とは言えないことです。測定値の不確かさは±3.5×10^10 cm^-2 s^-1と大きく、低エネルギー領域の信号は滑らかなスペクトルで特徴が乏しいため、残存する背景との区別が難しいという実験上の制約があります。また、本解析では外部の水チェレンコフ計測器のベトを使っていない点など、さらなる改良余地もあります。今後さらにデータを積み、背景制御を進めることで確度が高まる見込みです。