MAMI実験の113.8 MeV/cのπ−ピークはやはり超中性子核3ΛH(ハイペルトリトン)の崩壊に最もよく一致すると主張
この論文は、A. Gal氏が提案した「MAMIで観測された鋭いπ−運動量ピーク(約113.8 MeV/c)は7ΛHeの崩壊から来ているのではないか」という指摘に対する応答です。著者らは定量的な議論を示し、元の解釈である3ΛH(ハイペルトリトン)の崩壊による説明が最も支持されると結論づけています。
MAMI(マインツ加速器)での実験では、崩壊パイオンの運動量分布を測定し、約113.8 MeV/cに鋭いピークを見つけました。これに基づいて著者らは3ΛHのΛ結合エネルギーをBΛ(3ΛH)=0.523±0.013(stat)±0.075(syst) MeVと報告しています。Λ結合エネルギーとは、原子核に入ったΛ粒子(ラムダ粒子)がどれだけ強く結び付いているかを示す値です。
主な反論は定量的です。もしその113.8 MeV/cの線が7ΛHeの基底状態からの崩壊によるものなら、もう一つの「同行する」ピークが約114.5 MeV/c付近に現れるはずで、強度は約2倍と予想されます。しかし実際のデータには114.5 MeV/c付近の有意な過剰が見られません。その位置での信号上限は90%信頼度でN_UL=8.7イベントで、113.8 MeV/cでフィットから得られた信号はS=17.8イベントです。Gal氏の予想比率からは114.5 MeV/cに約36イベントが期待されますが、これは観測上限を4倍以上上回ります。逆に計算すると、7ΛHe崩壊が113.8 MeV/cピークに寄与できるのは最大で約25%にすぎません。
さらに、7ΛHe解釈はBΛ(7ΛHe)=5.84±0.07 MeVという値を要します。これは理論的推定から導かれた値ですが、JLab HKSの直接分光測定ではBΛ(7ΛHe)=5.55±0.10(stat)±0.11(syst) MeVと報告されています。MAMIの解釈を成り立たせるにはJLabの直接測定が約2σのずれを持つ必要がありますが、これを示す実験的な根拠は提示されていません。
著者らはまた、MAMIのBΛ(3ΛH)値が独立の実験であるSTARの結果(BΛ=0.406±0.120(stat)±0.110(syst) MeV)と整合する点を指摘します。一方で、古いエミュールション法による平均値とは差があり、著者らはエミュールーション解析に伴う系統誤差が十分に評価されていない可能性を警告しています。結論として、現時点では113.8 MeV/cの線を3ΛH→π−+3Heの崩壊に帰属するのが最も支持される解釈です。ただし最終的な決着には、より多くの統計を持つ専用実験が必要であると著者らは付け加えています。