光ファイバー上で古いインターネット信号と同時に「もつれの入れ替え」を実証 — 5ノード中継で最大40 kmを達成
研究の要点は、既存の通信ファイバーの中で通常のデータ信号と量子もつれ(エンタングルメント)の“入れ替え”を同時に動かせることを初めて示した点です。実験では5つの量子ノードを中継するトポロジーを組み、4本のファイバー(各10 km、合計で最大40 km)を通して、10ギガビット毎秒の古典データと時間ビン方式の量子光子を同時伝送しながらエンタングルメントの入れ替えに成功しました。これはこれまで専用ファイバーで行われてきた実験の拡張に当たります。
研究チームは2つの独立した「もつれ光子対源」を用意しました。各源は1536.6 nm付近の光子対を作り、一方の光子を中央の中継ノード(チャーリー)へ送り、そこでベル状態測定(2つの光子を合わせて特定の測定をする操作)を行います。チャーリーで特定の結果が出ると、残った二つの光子(アリスとボブにある)は直接触れていないのに互いにもつれた状態になります。時間ビンという「早い/遅い」時間窓に情報を載せる手法で、長距離伝送に向く形式を使っています。
実験では量子信号と同じCバンド内に古典信号(1547.7 nm、ITUチャネル37)を重畳(マルチプレクス)しました。これは既存の光通信帯域を活かすためですが、高出力の古典光が生む自発ラマン散乱(SpRS)という雑音光子が量子帯域に入り込みやすくなります。雑音対策として、まず100 GHzの分波器で多重化し、受信前にさらに50 GHz帯幅(実効通過幅は約41 GHz)のフィルターを入れてラマン雑音を狭く切り出しました。検出は検出効率約90%でジッタ(時間のばらつき)40 psの超伝導ナノワイヤ単一光子検出器を使い、時刻合わせと300 psの一致窓で時間的に雑音を減らしています。偏波や到着時間のずれは自動偏波制御器と可変光遅延で補正しました。
この結果が重要な理由は、量子ネットワークを既存の光ファイバー網に共存させる現実的な道筋を示したことです。ファイバーをまるごと量子専用にするのは現実的でない場合が多く、古典通信と同じ線路で量子プロトコルを動かせることは実用化への一歩です。さらに、実験で使った1536.6 nm付近の光子はエルビウムイオン量子メモリの遷移に近く、将来の中継やリピータ設計との親和性も考えられています。研究者らは実験だけでなく、自発ラマン散乱と装置の不完全性を織り込んだ理論モデルも作り、設計上のトレードオフを評価しています。
重要な制約も明確です。Cバンドで古典信号と共存させるとラマン雑音は大きくなります。雑音の発生率は古典光の出力、波長の割り当て、ファイバー長に比例します。論文は量子の忠実度(もつれの質)とラマン雑音の間に明確なトレードオフがあると報告しています。今回の実証は最大40 kmで10 Gbpsの古典通信と同時動作を見せましたが、雑音や検出器の暗カウントなど他のノイズ源が実用域での性能を左右します。著者らは今回の手法とモデルが、他のノイズや異なるネットワーク設計の評価にも使える道具になると記しています。