MicroBooNE、アルゴン上でのサブGeV νµ コヒーレント荷電パイオン生成を初めて測定
MicroBooNEコラボレーションは、アルゴン原子核上でのミューオンニュートリノ(νµ)による荷電カレント・コヒーレントパイオン生成の断面積を、平均エネルギー0.8GeVの領域で初めて測定しました。使用したデータはブースターニュートリノビームで得られた1.26×10^21プロトンオンターゲットに相当します。フラックス平均断面積は(9.1 ± 1.2_stat ± 1.2_syst) × 10^−40 cm^2/Arと報告されています。これはサブGeV領域でのアルゴンに対する最初の測定です。
コヒーレント荷電パイオン生成とは、ニュートリノが原子核全体とまとめて弱い相互作用を起こし、原子核を壊さずに前方へ進むミューオンと正電荷のパイオンだけを作る反応です。生成された二つの粒子の運動は単純な二体運動に近く、原子核は基底状態のまま残ります。こうした性質のため、反応からニュートリノのエネルギーを比較的正確に決められます。これが将来の長基線ニュートリノ実験、たとえばDUNEのような実験でニュートリノフラックスの不確実性を抑える手段として注目されます。
測定はMicroBooNEの液体アルゴン時間投影室(LArTPC:active mass 85トン、活動体積2.32×2.56×10.36 m^3)で行われました。検出器はボースタービームから470メートル下流に置かれ、ビームは主にνµで構成されています(約93.6%)。シミュレーションにはGENIE v3を用い、コヒーレント過程の基準予測としてBerger–Sehgalモデルが使われました。実データにはビームオフ時のデータを重ねて宇宙線や電子ノイズの背景を再現し、Pandoraという再構成ソフトで事象の追跡と粒子同定を行っています。前方ミューオンの角度決定は約2.4度の精度が得られると報告されています。
この測定は理論モデルの検証に重要です。コヒーレント生成の理論は部分的保存軸電流(PCAC)仮説と関連していますが、PCACやAdlerの関係は高エネルギー極限で厳密に成り立つため、サブGeV領域へ伸ばすには追加の仮定が必要です。現行の事象発生器(ジェネレータ)間で予測に差があり、実験データによる評価が求められていました。シミュレーションではこの過程は稀で、シミュレーション上の全ニュートリノ反応の約0.15%に相当すると予測されます。
重要な注意点もあります。結果はフラックス平均の断面積であり、エネルギー依存性を詳しく示すものではありません。統計的不確かさと系統的不確かさがそれぞれ±1.2(同じ位相の相殺でなく個別評価)と報告されており、誤差は無視できません。また解析ではBerger–Sehgalモデルを基準にしており、低エネルギーでの理論的な拡張や最終状態相互作用の扱いは結果に影響します。さらに、レゾナントパイオン生成など近いトポロジーの背景過程の影響や、地上検出器であるための宇宙線背景処理も解析の難しさとして挙げられています。
今回の測定は、サブGeV領域のアルゴンでのコヒーレント反応に関する実験的な基礎データを初めて提供します。将来はエネルギー依存性の測定や、異なる理論モデルとの直接比較を通じて、フラックス制約手法やニュートリノ相互作用モデルの改良に役立てられる見込みです。ただし、現時点ではモデル依存性と誤差を踏まえて慎重に解釈する必要があります。