重力定数Gの時間変化を多波長観測で検証 — GW170817から3σで˙G/G∈[−3.36×10⁻⁹,5.34×10⁻¹⁰]年⁻¹の制約
この論文は、万有引力定数Gが時間とともに変わるかどうかを、重力波と電磁波を組み合わせた観測で調べた研究です。研究者たちは、2017年の二つの中性子星合体イベントGW170817と、それに対応する短ガンマ線バーストGRB170817Aのデータを使い、Gがゆっくり変化するという仮定の下で解析を行いました。その結果、時間変化の証拠は見つからず、3σ(約99.7%信頼)での保守的な上限・下限を˙G/G∈[−3.36×10⁻⁹,5.34×10⁻¹⁰]年⁻¹と得ました。これは実際の重力波観測から得られた中で最も厳しい束縛だと報告されています。
研究者たちはまず、Gが時間で変わると重力波の作られ方(ソース側)と宇宙を伝わるときの振る舞い(伝播側)の両方に影響が出ることに着目しました。ソース側では、Gの変化が中性子星の重力自己エネルギーに影響し、その結果として星の「質量」が時間的に変わり得ます。伝播側では、広がる宇宙を通る間に重力波の振幅が追加で変化します。これらを同時に扱うために、時間変化するGを組み込んだ波形モデルを作り、観測データに対してベイズ解析(観測と事前知識を統合する統計手法)を適用しました。解析にはLIGOハンフォードとリビングストンのデータを用い、20Hzの低周波数カットオフで解析しています。
技術的には、彼らはパラメータ化された「ポスト・アインシュタイン」(ppE) の枠組みを使って、波形の位相と振幅にG変化による補正項を追加しました。ここで重要な概念に「感度」(s)があります。感度は、ある密な天体の質量がGの変化にどれだけ反応するかを示す量です。感度とGの時間微分が入ることで、軌道減衰や波形の位相進行に特徴的な変化が現れます。さらに、中性子星の物理(方程式)から許される質量範囲をトルマン–オッペンハイマー–ヴォルコフ(TOV)方程式に基づいて課し、非物理的な解を除外しました。
具体的な結果としては、2種類の基準波形モデル(TaylorF2 と IMRPhenomXAS_NRTidalv2)を用いて独立に解析を行い、どちらの場合も一般相対性理論(Gは定数)との間に統計的に有意な差は見られませんでした。波源でのG比を表す非標準パラメータκ=G*/G0は、それぞれκ=1.17(+0.27/−0.19)とκ=1.11(+0.25/−0.18)(3σ区間)と推定され、これを観測のルックバック時間に換算して˙G/Gの区間が導かれました。保守的にまとめた3σ制約が˙G/G∈[−3.36×10⁻⁹,5.34×10⁻¹⁰]年⁻¹です。
この結果が重要なのは、強い等価原理(SEP: 重力の自己エネルギーを含む実験も含めて重力の法則が普遍であるという原理)を、強い重力場でかつ動的な状況で検証した点です。GWと電磁波を組み合わせる「マルチメッセンジャー」観測は、重力波だけでは解決しにくい距離や傾きの不確かさを電磁観測が補い、Gの時間変化と天体物理的なパラメータの混同を減らします。今回の解析はその力を示す実例です。
重要な注意点もあります。今回のモデルはGが「ゆっくり」時間変化することを仮定しています。解析は単一の事象GW170817に基づいています。波形モデルや中性子星方程式の扱いなど、モデル化に伴う不確かさが残ります。著者らは2つの異なる波形モデルで頑健性を確認していますが、より多くの事象や改良されたモデルが将来の制約の改善に必要です。以上が、この論文が示す主要な内容と限界です。