シリコン窒化物マイクロリングで通信波長の「双子光子」を生成して同じ素子で単一光子も作動示唆
この論文は、シリコン窒化物(Si3N4)のマイクロリング共振器を使って、周波数が一致する“双子光子”を通信波長帯で生成することを示した研究です。双子光子とは、性質が区別できない一対の光子で、量子情報処理や量子光学の実験で役立つ資源です。研究者らは同じチップ上で、双子光子の生成と従来の「ヘレーディング」(信号から対応する相手光子の到来を予告する)単一光子生成の両方を実現しました。
実験では、リング共振器の互いに一つ離れた二つの共振モード(論文中ではITUチャネルCh33とCh35)に二本のレーザーを同時に入れます。この二色ポンピングにより、逆四光波混合(逆FWM、論文ではポンプ非縮退自発四光波混合: pump non-degenerate SFWM と表記)と呼ばれる過程で、二つの異なるポンプ光子が中央の共振モード(Ch34)に周波数が揃った二つの光子を生成します。装置ではチャンネル分離用のフィルター(CDWDM)や高効率の超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPD)を使って生成光子を取り出し、時間相関測定で性質を調べています。
主な測定結果は次の通りです。双子光子生成の評価はコインシデンス対偶発カウント比(CAR:coincidence-to-accidental ratio)で行われ、最大で5.4±0.6を報告しています。測定では入力ポンプの合計出力を下げるとCARが上がる傾向が観察されました。また、双子光子は同時検出の遅延ゼロで強い「バンチング」(同時に来やすい性質)を示し、二つのポンプを同時に入れた場合にのみそのピークが顕著になることから、ポンプ非縮退SFWMが主要な生成過程であることが示されました。論文は、生成した周波数が完全に同じであるために50/50分岐による検出方法が測定上のCARを約2倍低くする点も指摘しています。
同じチップを通常のポンプ縮退SFWM(単一の共振モードをポンピング)に切り替えてヘレーディング単一光子源としても調べています。その結果、スペクトル純度(単一の時間周波数モードにどれだけ近いかを示す指標)はP=0.67±0.05で、ヘレードされた自己相関の値(g_h^(2)(0))は0.0042±0.0015と非常に低く、単一光子としての振る舞いを示す反バンチング(反集中的到来)が確認されました。これにより同一デバイスで二種類の量子光源動作が可能であることが示されます。
この成果の意義は二つあります。まず、Si3N4プラットフォームは低損失で通信波長帯に適し、CMOS製造と相性が良いことから、集積量子光源の実用化に向けた有力候補です。論文は、単一デバイスで周波数縮退の双子光子源とヘレーディング単一光子源の両方を示した点を、同分野で初めての実証としています(著者らの記述に基づく)。二つ目は、双子光子は同一モードの圧縮真空状態の光子カウント領域に相当し、連続変数型や多光子プロトコルでの応用が考えられる点です。
重要な留意点もあります。報告されたCARの値は中程度であり、単純に他のヘレード光源のCARと比較できないことが明記されています(双子光子の検出方式に起因する補正が必要)。また、スペクトル純度Pは1(完全に単一モード)には届かない値です。さらに、論文中の一部の実験条件や数値は抜粋で与えられたテキストが切れており、最大CARが得られた正確なポンプ出力などの詳細は本文の全体を参照する必要があります。そのため、実用化にあたっては効率や雑音、スケールの評価など追加の検討が残ります。