対称質量生成(SMG)は格子上で純粋な「片手性」粒子を作れるか? ニールセン=ニノミヤの定理を拡張して検討
この論文は、格子上で「対称質量生成」(SMG: symmetric mass generation)という手法が、本当に鏡面フェルミオンを対称性を壊さずに重くして、望ましい片手性の質量ゼロスペクトルを得られるかを検討しています。著者らは、相互作用が強くとも成り立つ一般的な制約を調べ、ある条件下ではニールセン=ニノミヤの定理が有効になり、結果として質量ゼロのフェルミオンはベクトル様(右手と左手の対がそろった)になってしまうと結論づけます。これは格子上で純粋に片手性のゲージ理論を作る試みへの重要な制約です。
SMGのアイデアはこうです。まず格子上にディラックフェルミオンを置きます。そこでは物理的に残したい左手(LH: left-handed)フェルミオンの他に、いわゆる鏡面となる右手(RH: right-handed)フェルミオンが現れます。SMGではゲージ相互作用をまだ入れずに、非ゲージの強い相互作用を右手成分にだけ与えて、それら鏡面を格子カットオフ(格子間隔 a の逆数)程度の重さでギャップ化(質量化)しようとします。重要な点は、対称性を自発的に壊さないまま鏡面だけを重くすることです。
解析の手法は一粒子の有効ハミルトニアン Heff を使うことです。具体的には、零周波数での遅延(レターデッド)プロパゲーターの逆行列 R^{-1}(p) を有効ハミルトニアンと見なします。そうするとニールセン=ニノミヤの定理が適用できるかどうかを検討できます。ここで鍵になるのは“プロパゲーターのゼロ”の性質です。ゼロが「運動学的(kinematical)」であれば、それは鏡面フェルミオンと結合した束縛状態(bound state)が現れたことを意味します。束縛状態が生成されればユニタリティ(確率保存)を損なうゴーストは出ず、有効ハミルトニアンは定理の仮定を満たす場合があります。一方、ゼロが「本質的(genuine)」だとゴーストが生じ、理論が非物理的になります。
論文の主要な結論は次の通りです。格子ハミルトニアンが有限範囲で局所的で、離散的な保存電荷が正しく定義されており(対称性は破れていない)、連続極限に現れる質量ゼロ粒子が自由な相対論的フェルミオンだけであり質量ゼロのボソンが現れない、さらに各電荷セクターで適切な補間子(interpolating field)が作れる(つまり遅延プロパゲーターに零がない)という仮定を置くと、Heff はニールセン=ニノミヤの定理の仮定を満たします。したがってその場合、格子から得られる質量ゼロスペクトルは片手性にはならず、必ずベクトル様(左右対になった)になります。
ただし重要な注意点が多く示されています。結論は多くの仮定に依存します。特に鏡面のギャップ化が束縛状態の形成による「運動学的ゼロ」で説明できるかはモデルごとに異なります。論文では一つの例として「3450モデル」と呼ばれる2次元の候補モデルを挙げ、強結合で束縛状態が実際にできる可能性を指摘していますが、点分割された相互作用のため解析的な強結合展開が使えず、数値的な検証が必要だとしています。さらに、もしプロパゲーターのゼロが本質的であれば理論は非物理的になり得ます。結論として、SMGアプローチが全て失敗するとは断言できませんが、格子上で純粋な片手性スペクトルを得るには、本論文が挙げる仮定のどれかを外す必要がある、という慎重な見方が示されています。