高解像度モデルで調べた欧州の二酸化炭素除去(CDR):植林や岩石風化でコスト9%削減、空気回収(DAC)は不要に
この論文は、欧州の電力・熱・輸送・産業を一体で扱う高解像度の系統モデルに、森林造成や多年生作物、バイオチャー、強化岩石風化といった追加の二酸化炭素除去(CDR)手段を組み込み、気候中立を達成する際の効果を調べた研究です。結論の要点は、これらの追加CDRを組み込むとシステム全体のコストが約9%下がり、地下貯留と大陸間のCO2輸送網があれば、費用の高い大気からの直接回収(DAC: Direct Air Capture)は不要になる、ということです。解析は3時間ごとの時間分解と90ノードの空間分解で行われました。モデルで見積もられた気候中立システムの年間コストは約8800億ユーロです。
研究チームはオープンソースのエネルギーシステムモデルPyPSA‑Eurを拡張しました。追加したCDRは、(1)未森林地への植林(afforestation)、(2)年作物を多年生作物に転換する「多年生化(perennialisation)」(土壌により多くの炭素を留める狙い)、(3)バイオチャー(植物を高温で分解して安定した炭素を土に入れる方法)、(4)強化岩石風化(ERW:微細なケイ酸塩岩を撒いて大気中のCO2と反応させる方法)です。これに地下貯留の潜在能力(モデルでは200百万トンCO2/年を想定)とCO2輸送網を組み合わせて、各技術の導入量や発電・貯蔵などを共同最適化しました。追加のCDRは合計で169百万トンCO2/年の除去能力を提供しました。
結果の詳細では、植林・多年生化・ERWはほぼ全域でフルに活用されました。一方でバイオチャーは選ばれませんでした。理由は、バイオチャーが固形バイオマスを必要とするのに対し、モデル上では固形バイオマスがまず工業用の中温熱やコンバインドヒート&パワー(CHP)、ボイラー、あるいはバイオ燃料生産のようなより価値の高い用途に割り当てられるためです。個別のコスト寄与は、植林が約5%、多年生化が約2%、ERWが約2%のコスト削減に寄与しました。さらに、地下貯留容量を600百万トンCO2/年に増やしても、これらの追加CDRはほぼ使い切られる結果になりました。
なぜ重要かというと、産業の一部で残る避けられない排出(論文ではセメントなどで年間約134百万トンCO2と計算)を相殺するために、負の排出(大気から引き去って長期に貯めること)が必要だからです。モデルでは、植林などの自然系や土地利用ベースのCDRが地下貯留と組み合わさることで、航空や化学向けの合成燃料に頼る必要が減り、全体コストを下げられることが示されました。また大陸規模のCO2輸送網があると、発生地点で捕集したCO2を貯留や合成燃料生産の需要地へ移送できるため、DACの必要性がさらに小さくなります。モデル上のCO2の影響価格(シャドープライス)は、地下貯留のみのケースで約723ユーロ/トンCO2から、追加CDRを加えた場合に約649ユーロ/トンCO2へ下がりました。
重要な注意点もあります。論文自身が指摘するように、各CDRの実際の可能性には大きな不確実性があります。植林でどれだけ長期に炭素を貯められるか、投入できる土地面積、土壌への炭素固定率、強化岩石風化の反応速度や岩石の投入量などは十分に確定していません。監視・報告・検証(MRV)も課題です。モデルは「様式化(stylised)」された表現を用いており、実際の社会的・生態的制約や供給チェーンの詳細までは反映していません。また、これらのCDRが本当に必要になるのは非常に厳しいCO2排出削減目標を課した場合に限られる、という点も論文で示されています。PDF抜粋が途中で切れているため、さらなる条件や感度解析の細部は原論文を参照する必要があります。