格子計算で確定する:K_L→μ^+μ^-崩壊の二光子寄与を三フレーバー理論で正準化する方法
この論文は、まれなカオン崩壊 K_L→μ^+μ^- の理論予測に必要な「長距離」二光子交換の寄与を、三フレーバーの有効理論(u, d, s クォークのみ)で正しく扱う方法を示しています。長距離寄与は低エネルギーの強い相互作用(非摂動的 QCD)を含むため、格子QCDと呼ばれる数値計算が必要です。実験で測られた崩壊率と短距離の標準模型予測を比較するには、この二光子寄与の実数部を正確に知ることが不可欠です。実数部は短距離の寄与と同程度の大きさになると考えられています。
今回の課題は、三フレーバー理論にチャーム(c)クォークを含めないと、グラショウ=イリオポリス=マイアニ(GIM)取消しが働かず、低エネルギー定数(LEC:low-energy constants)が新たに現れてしまう点です。これらの定数は省略されたチャーム質量 mc に依存します。論文では、これらの定数を決める実用的な方法を提案しています。具体的には、小さな空間体積で、u と d を物理値より重くした格子計算で四フレーバー(u,d,s,c)を扱い、その結果と三フレーバーの計算を合わせて LEC を決定します。小さな体積と重い軽クォークにより、チャームとパイオンの間のスケール差が小さくなり、四フレーバー計算が実行可能になります。
技術面では、三フレーバー理論における発散部分を分類し、必要な反項(カウンターテルム)を明確にしています。K_L→μ^+μ^- の計算で新たに現れる発散亜図式は三つのクラスに分けられます。Class A は弱頂点と1つの電磁(E&M)電流を含む種類で、Class B は弱頂点と2つの電磁電流を持つもの(三角図形と関連し、軸対称性に関係する問題が出ます)、Class C は図全体が発散する場合で、二つのクォークと二つのミューオンに作用する反項が必要になります。計算を簡単にするために、チャーム質量スケールでの強い結合定数 α_s(mc) の級数展開を使うことや、寄与の大きさから主に演算子 Q1 と Q2 の行列要素だけを考える近似も説明されています。
この研究は、先行研究で行った実際の格子計算(論文中の Ref.[6])と直接つながっています。先の計算は「24ID」と呼ばれる粗い格子間隔のアンサンブルを使い、ほぼ全ての長距離二光子振幅を得ましたが、正準化(renormalization)が行われていなかったため、格子間隔に依存する非物理的な定数が残っていました。本論文はその問題点を特定し、24ID ともっと細かい格子間隔でチャームを一貫して含められる別のアンサンブルの両方を使って課題を解くための正準化条件を示します。これにより、前回の計算の結果に付け加えるべき補正項を決める手順が現実的な費用で可能になるとしています。
重要な注意点を挙げると、本法はチャーム質量に比例して小さくなる O(1/m_c^2) の項を無視する近似に依存します。さらに、三フレーバー理論で現れる LEC の数は、使う正準化や電磁カレントの扱い(保存カレントか局所カレントか)に左右されます。論文で提案する二つの正準化(保存された E&M カレントを使う方法と、非物理的な軽いチャームを導入する方法=パウリ・ビラルス補正に似た手法)には、それぞれ利点と追加の注意点があります。要するに、この論文は最終的な数値結果を出す計算そのものではなく、三フレーバー格子計算を物理的に意味のある結果に変えるために必要な反項と、実際にそれらを決める現実的な手順を示したものです。