235Uの熱中性子核分裂で得られた同位体生成率:132Snの産生が評価値より大きく少ないことを発見
研究の要点は、ウラン235(235U)に熱中性子を当てて起こる核分裂でどの同位体がどれだけ作られるかを、出てくるガンマ線(光)を使って直接測ったことです。フランスと欧州の研究者らは、ギル(ILL: Institut Laue‑Langevin)のFIPPSガンマ線分光器を使い、235Uを液体シンチレータに溶かした「能動ターゲット」を用いて、分裂直後に出る「即時ガンマ」と後から出る「遅延ガンマ」を同時に記録しました。主要な発見は、二重魔法核と呼ばれる132Sn(スズ132)の生成量が、既存の評価核データベース(JEFF‑3.3やENDF/B‑VIII)に比べて大幅に少ないことです。具体的には、本実験での132Snの独立生成率は0.107(5)で、JEFF‑3.3の0.74(19)やENDF/B‑VIIIの0.59(2)に比べて約5〜7倍少ない値でした。
実験の仕組みは次の通りです。能動ターゲット内で分裂が起きると、二つの分裂破片が液体中で止まり、その運動エネルギーが光に変わります。この光を光電子増倍管(PMT)で検出し、短い時間窓内に来るガンマ線を「即時(分裂に伴う)ガンマ」として選別します。ガンマ線本体は16個の高純度ゲルマニウム(HPGe)検出器で高精度に測りました。実験では9095回分の5分間ランを選び、これらを基に一回の分裂あたりの絶対生成率を求めています。能動ターゲットを使う利点は、分裂事象とベータ崩壊由来の遅延事象を区別できる点と、分裂ごとに正規化できる点です。
生成率の取り出しには二つの方法を使いました。方法M1は、目的の核種の基底状態(最も安定な状態)に入る全ての遷移(ガンマ線)の強さを合計して分裂回数で割るやり方です。偶数個のプロトンと中性子を持つ「偶偶核」では有効です。実際のガンマ線スペクトルは多くの峰が重なって複雑になるため、方法M2ではガンマ‑ガンマの同時検出行列を使って、もっとも確からしい2段階連鎖遷移を選び、その強さ比から基底状態への寄与を推定しました。解析では死時間補正、真和合効果(サミング)、混入、アイソマー遷移など多くの補正を入れてあります。また、観測された「見えない」基底状態直接生成の可能性を評価するために、FIFRELINという分裂破片の余剰エネルギー放出を模擬する計算コードを使って解釈を行いました。
主要結果の解釈として、FIFRELINのシミュレーション(CGCMというレベル密度モデルを用いた例)では、132Snは分裂直後(切断:scission)で約66%が基底状態で生成され、さらに中性子蒸発後にもう14%が直接基底状態となると予測されました。つまりガンマ線をほとんど出さずに直接基底状態で作られるため、即時ガンマ測定では見えにくく、評価値と差が生じているという説明が成り立ちます。他の核種については概ね評価値と良い一致が得られていますが、88Krと94Srは低めに出ており原因はまだ明らかではありません。134TeについてはFIFRELINが約17%の「隠れた」基底生成を示しており、その補正をすると評価値に近づきますが統計的な有意性は限られます。
遅延ガンマ線の解析では、132Snのベータ崩壊は既存の核データベースと矛盾しませんでした。しかし90Krのベータ崩壊では約40%の過剰が観察されました。これは評価データで90Rb(ルビジウム90)への基底状態フィーディング(直接崩壊で基底状態に入る割合)が過大評価されている可能性を示唆します。本研究は原子炉からの反ニュートリノ異常(実験で観測されるニュートリノ数と予測のズレ)に関連して、崩壊データを点検する需要の文脈でも行われています。重要な注意点として、本報告は「予備的」な結果です。スペクトルは依然として非常に複雑で、解析は観測の切り取り方やモデル(FIFRELIN)の仮定に依存します。また、M2法は「破片の脱励起が相手破片によらない」という仮定に基づいているため、そこから生じる不確かさも残ります。これらの点を踏まえ、今回の結果は核分裂生成率と崩壊データの評価を改善するための重要な手がかりを与えるものですが、さらに詳細な解析と追加実験が必要です。