ニュートリノ振動で調べる「ローレンツ対称性」の破れがDUNEのCP測定に影響する可能性
この論文は、ニュートリノ振動に現れる可能性のあるローレンツ不変性の違反(LIV: Lorentz invariance violation)が、次世代長基線実験DUNEにおける電子型ニュートリノ出現とCP対称性の発見感度にどのように影響するかを調べています。研究者らは、LIVのうちCPTを破る成分(aαβ)とCPTを保つ成分(cαβ)という二種類の項の相互作用に注目し、特にどの成分が振る舞いに大きく寄与するかを示しました。主要な結論の一つは、対角要素ではaeeとaττが支配的であり、非対角要素ではaeμとaeτが最も重要だという点です。これらのa成分があると、DUNEが本来期待しているCP非保存の発見確率が大きく下がる場合があると報告しています。
研究チームは標準模型の拡張枠組みである「最小Standard Model Extension(SME)」を使い、回転対称性を仮定した等方性の簡約化を採用しました。この枠組みでは、LIVはニュートリノの有効ハミルトニアンに小さな行列として加わります。aαβはエネルギーにほぼ依存しないCPT破れる項で、cαβはエネルギーに依存するCPT保存の項として振る舞い、両者はエネルギー依存性が異なるため振動確率への影響も異なります。解析はまず解析式を導き、続いてDUNEを代表的実験として数値シミュレーションとχ2解析、バイプロビリティ(νとν̄の確率を並べた図)などでパラメーター空間を調べるという流れで行われました。
得られた具体的な結果としては、aeeとaττが対角で支配的であるのに対し、aeμとaeτが非対角で最も強い効果を与えました。対してcαβは相対的に影響が小さい「下位」の効果を示しましたが、cαβが独立に存在してもCP感度の抑制を招きます。さらに重要なのは、a成分とc成分が同時に存在すると互いに「縮退(見分けがつかない組合せ)」を作り出し、標準的に測りたいディラック位相δCPの抽出を複雑にする点です。論文は、LIVが無ければDUNEは限られた範囲のδCPで5σのCP発見が期待される一方、aee、aττ、aeμ、aeτが存在する場合には多くのδCP値で有意性が3σ未満に落ちる領域が生じると報告しています。総じて、これらの効果はDUNEのCP感度を5σ未満に低下させうると結論づけています。
なぜこの研究が重要かというと、DUNEのような次世代長基線ニュートリノ実験はレプトン部門におけるCP対称性の破れを検出することを大きな目的にしています。もしLIVのような新しい効果が実際に存在すると、純粋なCP破れの信号と混同されて誤った解釈につながる恐れがあります。本研究は、LIVを含めた解析を行うことの重要性を示し、将来の実験で得られるデータを正しく解釈するためにLIVの効果を同時に検討する必要があることを明らかにしました。
重要な制約と不確かさも明示されています。論文は最小SMEの等方性(回転対称)という簡約化を用いています。これは全ての可能なLIVを扱ったわけではなく、結果は仮定されたパラメーターや新たな位相の値に強く依存します。さらにaとcの組合せで生じる縮退や位相に対する非自明な依存性は、すべてのケースで同じ影響を与えるわけではないことを意味します。したがって、本研究はDUNEを代表例としてLIVの潜在的リスクを示すものであり、実際の実験データを使った追試や他のLIVモデルを含めた追加研究が必要です。