悪意ある大規模エラーに耐える新しい量子フォールトトレランス定理の証明
この論文は、量子計算を「悪意ある」ノイズから守る新しいフォールトトレランス(誤り耐性)の定理を示します。研究者らは、論理的に設計した回路をより多くの物理量子ビット(ここでは一般化したqudit)に変換して実行することで、各時刻にほぼ線形の数の物理quditが任意に壊されても計算を成功させられることを示しました。簡単に言えば、従来は局所的で確率的な誤りを仮定していたのに対し、ここでは世界的かつ最悪の場合の相関のある誤りにも耐えられます。
具体的に彼らが行ったことは、新しい「サブシステム・プロダクト符号」と呼ぶ誤り訂正符号族の構成です。これらの符号は、論理情報を多くの物理quditに分散して保存する設計で、符号の寸法(情報の量)と距離(訂正できる誤りの大きさ)が大きく、かつチェックに低い重み(少数のquditだけを調べればよい)を持ちます。さらに、論理操作を物理上で単純に並列適用する「横並び(トランスバーサル)」で非自明なゲートも実行できます。誤り訂正は「シングルショット」と呼ばれる方法で行います。これは繰り返し測定しなくても一回の簡単なチェックで訂正できる手法で、周期的に簡単な検査を行う「フロッケト(Floquet)風」手順を用いています。最後に符号を切り替える方法と反復構成で、実用上のアルファベット(quditの次元)を小さくします。
この結果が重要な理由は二つあります。第一に、相関が強く世界的なノイズでも理論上は量子計算が可能だと示した点です。論文内の非正式な主定理では、論理的に N 個のquditと深さ T の回路を、物理的に N ≤ N^{5+ε} 個のquditと時間オーバーヘッドが T·2^{O(√log N)} というサブ多項式的増加で実行でき、各時刻に N/2^{O(√log N)} 個(すなわちほぼ線形の数)のquditが壊されても耐えられると述べられています。これは従来の最良結果(各時刻に O(N^{1/3}) 個まで)に比べて大きく改善しています。第二に、この技術は量子版PCP(確率的多項式検証)問題に向けた重要な足掛かりとなります。特に、回路を局所ハミルトニアン(物理系のエネルギー式)に写す手法と組み合わせることで、困難だった量子PCPへの道を開く可能性があると筆者らは述べています。
ただし、いくつかの重要な条件と限界があります。まずこの定理は素数冪次元のqudit(有限体に基づく次元)を前提にしています。実際の2値量子ビット(qubit)だけでの直接的な説明はしておらず、必要なら高次元のquditを複数のqubitでシミュレーションする方法で対応することは可能だとしています。さらに、定理の証明ではパウリ、ハダマード、CNOT、トフォリ、初期化/リセットといった特定の有限なゲートセットを仮定し、復号(エラー判定)に自由で雑音のない古典計算を使うことが前提です。これらの仮定は理論的証明を成り立たせるためのもので、実装面では追加の課題があります。また、量子PCPへつなげるには別途述べられたABN24の仮定(未証明の主張)が残り、筆者ら自身もそれが解決されることを前提にさらなる応用を示しています。
総じて、この研究は「自然がわれわれに対して陰謀をめぐらせても」量子計算は不可能にはならない、という理論的な安心材料を与えます。相当強い種類の相関ノイズや最悪の場合の攻撃に対しても誤り訂正で保護できる設計と手順を示した点が新しさです。一方で、仮定や実際の物理実装への適用可能性にはまだ検討すべき点が残っています。