SPT-3G+: 南極の10メートル望遠鏡に導入される次世代の宇宙マイクロ波背景(CMB)偏光受信機
この論文は、南極にある10メートルの南極望遠鏡(South Pole Telescope, SPT)に2029年初頭に設置を予定する新しいCMB(宇宙マイクロ波背景)観測受信機「SPT-3G+」の計画を紹介しています。主な狙いは、CMBの偏光をより深く高感度で観測し、宇宙初期の信号と大きな構造が作る像(レンズ効果)を詳しく調べることです。これにより、初期宇宙のインフレーション(急膨張)が残したとされる微弱な「Bモード」偏光の検出に近づくことを目指します。
装置の設計は具体的です。受信機は6,020個の二波長感度(ダイクロイック)ピクセルを備え、合計24,080個の検出器で観測します。観測は90 GHzと150 GHzの二つの周波数帯で行います。検出器にはトランジションエッジセンサー(Transition-Edge Sensors。非常に敏感な温度変化を検出する素子)を使い、希釈冷凍機で約100ミリケルビン(0.1 K)まで冷却します。読み出しはSQUID(超伝導量子干渉素子)を用いたマイクロ波多重化方式で、多数の検出器を効率よく同時に読み取れるようにします。
光学系は直径4度の視野を持ち、その視野を14本の個別な光学チューブに分けています。各チューブにはアルミナやシリコン、ナイロン製の低温レンズが入ります。これらの技術的選択により、現在運用中のSPT-3G受信機と比べてマッピング速度がほぼ1桁(約10倍)向上すると見積もられています。受信機は6年間の観測を予定しており、BICEPサーベイと重なる領域を観測することで、90 GHzと150 GHzを組み合わせたマップの深さを0.5 μK-arcminという非常に低いノイズレベルまで達成することを目標としています(数値が小さいほど感度が高いことを意味します)。
得られるデータは複数の科学に使われます。まず、これまでにない深さのCMBレンズマップを作れます。レンズマップは、大規模構造がCMBの偏光を曲げる効果を写したもので、この地図を使ってレンズの影響を取り除く「デレンジング(delensing)」が可能になります。重力レンズがEモード(偏光の一種)を曲げてBモードに変えるため、その影響を除くことで、もしあればインフレーションが作った本来のBモードを見つけやすくなります。ほかにも新しい銀河団の発見や、天体の一時的な現象(天体トランジェント)の検出にも役立つとしています。
重要な点と限界も明記されています。SPT-3G+は計画中の受信機であり、実際の成果は2029年の設置とその後6年間の運用、機器性能、データ解析、そしてBICEP Arrayなど他の観測データとの組み合わせに依存します。論文は、最終的にテンソル対スカラー比 r(インフレーション由来の重力波の強さを表す指標)を制約する目標としてσ(r)=0.001を掲げていますが、これは達成を目指す目標値であり、確実な結果を保証するものではないと読めます。実際の感度や系統誤差の扱い次第で、最終的な制約の精度は変わる可能性があります。