DESの最新結果が示す「動的ダークエネルギー」への傾向:Λ(ラムダ)に挑む観測とは何か
この論考は、ダークエネルギー調査(Dark Energy Survey, DES)の最終データとPlanck衛星の宇宙マイクロ波背景放射(CMB)データを組み合わせると、宇宙膨張を説明する標準モデルであるΛCDM(ラムダ・コールドダークマター)より「時間で変化するダークエネルギー」を好む傾向が約3シグマの統計的根拠で見られると報告している点を取り上げています。著者らはこの動向がダークエネルギーの本質をめぐる議論を再燃させていると述べています。論考はNature Astronomyに掲載されました。
DESが行ったのは二つの「幾何学的」観測です。一つはIa型超新星(Type Ia、標準光源として距離を測る)による距離–赤方偏移の測定です。もう一つはバリオン音響振動(BAO、初期宇宙で伝わった音の痕跡を標準尺として使う)の角径距離測定です。DESは2013〜2019年にかけて約5,000平方度を撮像するために570メガピクセルのDECamカメラを用い、複数フィルターで観測を行いました。DESは最終的な超新星データを2024年1月に公表し、BAOの最終解析も続けて公表しました。BAO測定では赤方偏移z≈0.85で角距離を2.1%の精度で得ており、その値はPlanckのΛCDM予測より4.3%低く、約2σのずれを示しました。超新星データ単独でもw0–wa型の時間変化を許す解析で約2σの偏りが見られました。
ここで使われるw0–waモデルとは、ダークエネルギーの「方程式状態」w(圧力とエネルギー密度の比)を時間とともに線形に変える簡単な記述で、w(a)=w0+wa(1−a)という形です。ΛCDMはw0=−1かつwa=0に対応します。DESのBAO、超新星、そしてPlanckのCMBを組み合わせた解析では、w0=−0.673+0.098−0.097、wa=−1.37+0.51−0.50という結果が得られ、ΛCDM(w0=−1, wa=0)から約3.2σの偏りが報告されました。自由度を2つ増やしたときの適合度改善はΔχ2=11.6と評価されています。全体として、観測はw0>−1かつwa<0の領域を一貫して支持しました。
この話が重要な理由は明快です。もしダークエネルギーのエネルギー密度が時間とともに変わるなら、宇宙を支配する力の性質を根本から見直す必要があります。単にアインシュタイン方程式に定数Λを入れる説明では不十分になり、場の理論や重力理論の拡張といった新しい物理を考える必要が出てきます。論考でも、これが確認されれば基礎物理学に大きな影響を与える可能性があると述べています。
しかし重要な注意点もあります。現在の有意性はデータの組み合わせによって変わります。別の観測装置であるDESI(ダークエネルギースペクトロスコピック装置)でも類似の傾向が見られる場合がある一方、組み合わせ方やデータセットに依存して有意性は2.5〜3.9σの範囲で変動しました。DESとDESIのBAO測定は一部で重なりがあり、その相関を無視すると最大で4.2σに達するという指摘もあります。さらに、複数のデータセットに共通する未知の系統誤差(システマティック)が存在すると、別の解釈で説明できる可能性があります。PlanckのCMBはΛCDMを非常によく制約する一方で、時間変化するモデルに対しては単独では弱い面があるため、複数の独立した観測での検証が必要です。
結論として、DESの最終的なBAOと超新星の幾何学的測定は興味深い兆候を示していますが、決定的な反証には至っていません。今後は独立したデータと追加解析でこの傾向が維持されるかどうかを確認することが鍵です。著者たちも、もし数年以内に有意性が増せばΛCDMの見直しが避けられないと述べており、現在は「注視すべき異常」として位置づけられています。