学術的「異常収益」は実務で消えたか:非マイクロ株では2006年以降の中央値は月7ベーシスポイントに低下
この論文は、学術誌で報告された約200種類の株式「異常(アノマリー)」戦略を実際に取引可能な株だけで再検証し、21世紀に入ってからは実務家にほとんど役に立たなくなった可能性を示しています。研究者は、2005年以前の全株を対象にした当初報告の効果は大きかったものの、2006年以降かつ大きな時価総額の株に限定すると中央値のリターンは非常に小さくなったと報告します。こうした結果は「公的株式市場は非常に効率的だった」という結論につながりますが、注意点も残ります。
研究者たちはChen and Zimmermann (2022)の公開データセットを使いました。このデータは、多くの論文で報告されている「長短ポートフォリオ」(成績が良いと予測される銘柄を買い、悪いと予測される銘柄を売る自己資金ゼロの取引)を統一的に再現したものです。解析では時代を「2005年末まで」と「2006年以降」に分けました。さらに実務家が取引しやすいように銘柄の範囲を絞るフィルターを使いました。代表的なフィルターは「上位3,000銘柄かつ時価総額の上位90%を占める銘柄群(N3000,90%)」で、これを主な“投資可能な”宇宙として扱っています。
主要な数値は分かりやすいです。1973–2016の論文で報告された多くの戦略をそのまま再現すると、2005年以前かつ全株を使った場合の中央値は約48ベーシスポイント(bp)/月でした。しかし、2006年以降だけにすると中央値は19bpに落ちます。さらに取引可能な大・流動株(N3000,90%)に限定すると2006年以降の中央値はわずか7bp/月になります。参考値として、CAPM(資本資産価格モデル)での中央値アルファは月9bpで、対応するt統計量が0.64と統計的に弱いことも示されています。7bp/月は年換算で約1%前後であり、実際の手数料や売買コストを考えれば容易に消える規模です。
研究者たちはまた、観測されたリターンが本物の信号か偶然のばらつきかを検証しました。200以上の戦略のt統計量の分散は約1.09で、偶然だけで得られるばらつきとほぼ同じでした。これを経験的ベイズ法で「縮小」調整すると、観測された多くのリターンはほぼゼロに押し下げられます。生のデータで最良だった戦略の一つは月66bpを示しましたが、運の要素を差し引くと6bpに縮みます。つまり、多くの「良さそうに見える」戦略は選択やサンプルノイズの結果である可能性が高いのです。
例外的に生き残ったのは主に収益性(profitability)や資金調達(financing)に関係するシグナルでした。現金ベースの営業利益や研究開発を調整した営業利益、粗利益、外部資金や株式発行に関する指標などが、ポスト2005の大株宇宙で比較的好成績を出しました。ボラティリティ関連や季節性を持つモメンタムの一部も上位に入りますが、それらのリターンも通常報告された古い論文ほど大きくはありません。特にモメンタムには暴落リスクがある点が論文中で指摘されています。
最後に留意点です。分析は公開データと明示的なフィルターに基づく再現であり、論文は結果の頑健性のために欠測や希薄なシグナルの扱いも説明しています。ただし、ここで示した要約は提供された抜粋に基づきます。論文の全文には追加の検証や細かい実装上の議論があるかもしれません。著者らの結論は控えめで、標準的な実装コストや偶然の要素を考慮すれば、2006年以降の大・流動株では学術的に報告された異常が投資家にとって実用的とは言いにくい、という点にほぼ集約されます。