宇宙から観る極高エネルギー粒子観測の提案:ASTRA 宇宙ミッション白書
この白書は、地球の大気を使って極めて高いエネルギーの粒子を観測する宇宙ベースのミッションを提案しています。対象は、超高エネルギー宇宙線(ECR≳1エクサ電子ボルト=1 EeV)や、非常に高いエネルギーのニュートリノ(Eν≳1ペタ電子ボルト=1 PeV)などです。著者らは、宇宙から全天を広く観測することで、これら“最も高エネルギー”のメッセンジャーが伝える情報を増やせると主張します。これはまだ観測例が少ない分野であり、新しい観測手段が求められています。
白書は具体的な観測案として、以前の研究で示されたPOEMMA(Probe Of Extreme Multi-Messenger Astrophysics)の設計を踏まえた構想を説明します。基本案は、同じ望遠鏡を載せた2機の人工衛星を地上約525 kmの低軌道に投入し、互いに約300 km離して同じ大気領域を同時に見るものです。各望遠鏡は視野45度、集光面積6平方メートル以上のシュミット光学系を使い、焦点面は2種類の検出器で構成されます。近紫外線を1マイクロ秒の時間分解能で計測する光電子増倍管(フルオレッセンス観測)と、上向きに発生するチェレンコフ光を10ナノ秒で捉える超高速シリコン光電子増倍器(SiPM)です。衛星は目標に素早く向ける機能も想定され、ミッション要求期間は3年、目標は5年です。
なぜ重要か。超高エネルギー宇宙線の起源や、どのような天体がそれらを加速するのかは未解決の大きな問題です。宇宙線が発する光や、宇宙線が周囲の物質や光とぶつかって生じるガンマ線・ニュートリノを合わせて観測できれば、加速源の性質を突き止める手掛かりになります。さらに、非常に高いエネルギーのニュートリノ検出は、暗黒物質の重い候補(超重い暗黒物質)の崩壊や新しい素粒子相互作用の探索にもつながる可能性があると白書は指摘します。宇宙からの全天観測は、地上観測を組み合わせる場合より系統誤差が少なく、統計的な発見力を高められる利点があります。
同時に多くの課題も示されています。まず、宇宙線は銀河間や銀河内の磁場で方向を曲げられるため、発生源を正確に指し示すには高エネルギー側での統計増加が必要です。大気中での粒子シャワー(EAS:Extensive Air Shower、大気中で広がる粒子のシャワー)からニュートリノ起源と宇宙線起源の事象を区別するには、角度やXmax(シャワーの発達最大点)などの良い分解能とステレオ(複数観測点)観測が必要です。軌道や衛星の向き、観測しきい値の低減、雑音除去技術(例:両焦点化光学など)といった技術成熟も求められています。
白書はこのミッション案を実現するための技術的準備(インキュベーション)を促すものです。これまでの調査ミッションや実証機として、ISS搭載のMiniEUSO(2019年運用中)やEUSO-SPB2(2023年飛行)などの例が挙げられています。今後の計画にはPOEMMAバルーン版(POEMMA Balloon with Radio、PBR、2028年予定)や衛星搭載のTERZINA(2026年予定)も含まれます。結論として、白書は宇宙ベース観測が科学的価値を持つとまとめつつ、実現にはさらなる技術開発と設計の成熟が必要だと強調しています。