ヘテロティック弦のカルビ–ヤウ・オービフォールドで質量ゼロのE6シングレット全体を数え上げる方法を提示
研究の主旨は、ヘテロティック弦理論をカルビ–ヤウ多様体の一種であるBerglund–Hübsch(BH)オービフォールド上でコンパクト化したときに現れるE6ゲージ群に対する質量ゼロの“シングレット”状態を完全に数え上げることです。著者は、自由場(フリーフィールド)による構成法を使って、右回りの子理論に現れる「下降子(デセンダント)」頂点の寄与を正確に扱う新しい規則を導入しました。具体例として、五次クインティックの既知のオービフォールド(ホッジ数(17,21))のスペクトルや、クインティック本体での330個というシングレット数、さらに残りの2つの五次オービフォールドの新しいスペクトルを再現/計算しています。全ての例で鏡対称性の一致が確認されました。
問題の背景はこうです。ヘテロティック弦の質量ゼロスペクトルは、左回りと右回りの因子の組合せで与えられます。左回りは剛的(リジッド)なチャイラル一次元状態が決まっている一方で、右回りには「下降子」と呼ばれる振動の飾り(オシレーター因子)が入るため、同じ表示の中に複数の独立な状態が存在します。単純に格子点や指数関数型頂点だけを数えると過剰に数えてしまいます。指数的頂点はどの表示のどの“位置”にあるかを示すだけで、そこで何個の独立状態があるかは示さないからです。従って、正しい数を得るには表示ごとに独立状態の数を決める追加のルールが必要でした。
著者が示した解は「シャパロバフ行列(Shapovalov行列)の階数(ランク)」に基づく普遍則です。シャパロバフ行列は、ある表示の下降子状態同士の内積で作るグラム行列です。その行列の階数は、その段階で実際に独立な状態がいくつあるかを示します。ユニタリティ(単位性)によって、長さゼロのヌルベクトルとその派生は自動的に取り除かれるため、埋め込み構造を個別に調べる必要はありません。質量ゼロの問題では、貢献する下降子のレベルは最大で1に制限されるため、対象となるシャパロバフ行列は最大で3×3になり、計算は扱いやすくなります。
この規則を、オービフォールドの「ねじれ(ツイステッド)セクター」と投影条件と組み合わせ、自由場と最小モデルの対応規則(格子運動量をモデルのラベルに翻訳する辞書)を用いて具体的な頂点を組み立てていきます。結果として、五次クインティックの(17,21)オービフォールドでは17個の世代、21個の反世代、234個のシングレットを再現しました。クインティック本体では330個のシングレットを得ており、これはよく引かれる326という幾何学的な値ではなく、古典的なLandau–Ginzburg計算(Kachru と Witten の結果)と一致することを示しています。さらに、Z5[0,1,2,3,4]で(21,1,210)、Z5[0,0,0,1,4]で(49,5,258)という新しいスペクトルも得られました。後者では例外的なホッジ数 h^{2,1}=49 がねじれセクターから生じています。
この仕事の意義は、シングレットの数が位相的不変量(トポロジーで固定)ではなく、理論空間(モジュライ空間)の特別な点、例えばGepner点のような解ける共形場理論点で変わり得ることを明確に示した点にあります。実際、クインティックでの330対326の差は、Gepner点でゲージ対称性が U(1)^4 に拡張され、その追加のU(1)に荷を持つ4つの状態が存在するためと説明されています。一方で注意点として、この方法は内部理論が解けるN=2最小モデルの積で記述できるBHオービフォールドに依存します。したがって、一般のカルビ–ヤウ多様体の任意の点で常に適用できるわけではありません。紙中ではねじれセクターと投影の扱いを既存の形式(文献[9,11]での形)で用いており、その前提の下での完全なスペクトル構成を与えています。