原子ボース=アインシュタイン凝縮の過程でVinen(ウルトラ量子)渦乱流を直接観測
この論文は、遠方から平衡外に置かれた原子気体がボース=アインシュタイン凝縮する際に現れる「Vinen(ウルトラ量子)渦乱流」を直接観測した報告です。研究者らは三次元の均一なボース気体の中で、ランダムに向き付けられた渦線(流れの回転が量子化された線状の欠陥)が作る絡み合いの長さ密度Lが時間とともにどのように減るかを測りました。得られた減衰は、理論で予想されるVinen則、すなわちdL/dt = −B L^2に一致し、定数Bはほぼℏ/m(ℏは換算プランク定数、mは粒子質量)でした。これは、弱く相互作用する気体でも大型の振る舞いが非回転流体(非圧縮流体)に似ていることを示します。
彼らはカリウム39(39K)の気体を円筒形の光学ボックスに入れて実験しました。箱の体積は約9×10^4μm^3で、密度は約2.2μm^−3、臨界温度は約70nKです。初めに相互作用を切った(散乱長a=0の)非コヒーレントな状態を作り、時刻t=0で相互作用を入れて系を緩和させます。相互作用の強さは402.7ガウスのフェッシュバッハ共鳴で変えられ、代表的な条件で散乱長は430a0(a0はボーア半径)などを用いました。観測ではまず雲を面内で約3.5倍に拡大し、厚さ約15μmの薄いスライスだけを画像化して渦の痕跡を拡大して見えるようにしました。撮像解像度は約5μmです。
渦線は、密度分布に現れる暗い細線として見えます。渦のコアの在来長さスケールは治癒長ξで約1μmですが、拡大と撮像の影響で画像上の見かけの直径は約15μmに広がります。画像から渦の痕跡を数えて、数学的にL = 4Ni/S(Niは面と交差した線の数、Sは面積)で渦線長密度Lを求めました。画像の切り出し基準やクラスタリングの細かい処理(印影を平均密度の0.5倍以下とするなど)で印影を識別しています。渦が明瞭に現れるのは概ねt≳80ms以降で、この時間はコヒーレンス長ℓの成長(ℓ^2の時間発展でdℓ^2/dt≈3.4ℏ/mと測定)と一致しました。
測定結果では、L(t)の減衰はVinen式に従います。データを合わせると定数Bは1.0(2)ℏ/mで、異なる散乱長aでもほぼ同じ値が得られました。長時間(Lが小さい領域)では指数減衰が支配的になり、時定数は約300msで、この遅い減衰は個々の渦がトラップ壁で消滅するような一次過程(one-body decay)と整合します。初期には渦同士の相互作用でより速い減衰が見られ、これがVinen(渦の絡み合い)乱流の特徴です。
重要な注意点があります。観測法は薄いスライスの画像で渦の印影を捉えるため、雲全体を積分した画像では渦痕跡は見えなくなります。これは投影や視線方向の積分による消去のためです。また、実験系は有限サイズであるため、時間が長くなると典型的な渦間隔が系サイズより大きくなり、統計的な変動が大きくなります。さらに、画像上の渦コア径は実際のコア径より大きく見える点や、痕跡検出で用いるしきい値など測定手順に依存する不確かさもあります。定数Bには誤差が付き、報告値は1.0(1)〜1.0(2)ℏ/mの範囲で与えられています。
この研究は、弱く相互作用する超冷却原子気体でも、古くから研究されてきた強相互作用超流動ヘリウムと同じ種類の渦線絡み合いの減衰が起こることを示しました。これは、渦のダイナミクスが遠方非平衡からの長距離秩序形成(ボース=アインシュタイン凝縮)に深く関わるという理論的な期待と合致します。ただし観測は限定的な条件下での結果であり、系の大きさや撮像方法、長時間の振る舞いには追加の注意が必要です。