JWSTの4回の観測でLHS 1140 bのヘリウム吸収は見つからず
この論文は、近傍の小型惑星LHS 1140 bで「飛行中」のヘリウムが見つかるかを確かめるための観測結果を報告します。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)のNIRISS/SOSSモードを使って4回のトランジット(2023–2026年)を観測しましたが、いずれでもメタ安定ヘリウムの吸収は検出されませんでした。これは、先行する地上観測で報告されたヘリウム検出と矛盾します。LHS 1140 bは質量約5.6地球質量、半径約1.7地球半径、軌道周期24.7日という比較的大きな低質量惑星です。これらの性質から大気を持つ可能性が高く、ヘリウム優勢の大気という仮説も提案されていました。
研究チームはNIRISS/SOSSのスペクトルで1.0833µmにある「メタ安定ヘリウム三重項」と呼ばれる狭い波長領域(1.07–1.095µm)に注目しました。合計4回のトランジット観測は、2023年12月1日と12月26日(過去のアーカイブ観測)および2025年8月10日と2026年7月23日の新規観測で構成されます。データはピクセル列ごとに光度曲線を作る方法で処理し、FIREFLyというパイプラインを主に使ってノイズ除去と光度抽出を行い、別のパイプライン(exoTE D RF)でも確認しました。観測ごとの積分数や観測時間は異なりますが、いずれの訪問も先行地上観測で報告されたレベルの吸収を検出できる感度がありました。
背景にある意味はこうです。メタ安定ヘリウム三重項の吸収は、惑星の上層大気からヘリウムが流出していることを示す有力な指標です。地上の報告(C. Cherubimet al. 2026)は2024年のあるトランジットで約1.24%の吸収を検出し、2025年の観測では非検出だったため、時間変動する大気放出の可能性が示唆されました。NIRISS/SOSSではその1.24%信号はピクセル解像度で約600 ppm(パート・パー・ミリオン)に相当すると見積もられますが、今回の4回すべてでそのような吸収は見られませんでした。著者らは地上観測に基づく最良モデルを各訪問で3σ(シグマ)以上の有意さで棄却しています。
この結果が重要な理由は、LHS 1140 bの本質を決める手がかりになるからです。内部構造モデルはこの惑星を「ミニ・ネプチューン」(水素に富む拡張大気がある)か「ウォーターワールド」(大量の水を含む)と示唆しています。もしヘリウム優勢で今も流出しているなら、大気の進化や散逸の過程を直接示す強い証拠になります。しかし本研究の非検出は、少なくとも観測された時点ではヘリウム流出の明確な証拠がないことを示します。したがって、地上での報告が誤検出であった可能性が高まり、LHS 1140 bの性質は依然としてはっきりしません。
重要な留保点もあります。今回のJWST観測は地上観測と同時ではありませんでした。著者らは、もしヘリウム吸収がトランジットの半分未満の頻度でしか現れないなら(≲50%)、時間変動によって今回の非検出が起きる可能性を否定できないと述べています。また、論文では今回焦点を当てたのはメタ安定ヘリウム周辺の狭い波長域だけで、全波長にわたる伝送(トランスミッション)や放射(エミッション)スペクトルの総合解析は今後の作業に残されています。従って結論は慎重で、さらなる同時観測や追加の解析が必要だと著者らは強調しています。