特異点を「自由境界」とみなすとビッグバンで反射するゆらぎが導かれる/一般相対性理論の作用原理からの新しい境界条件
何を調べたか:研究者たちは、時空の境界が特異点を含む場合に、重力の作用原理(アクション原理)をどう扱うかを考え直しました。特異点で場の変分(微小変化)を拘束せずに自由にしておくと、作用が停留するために満たすべき境界条件が特異点で自動的に導かれる、という考え方です。これを一般相対性理論と物質場(流体など)に適用して得られる結果を示します。
何をしたか(高レベルのやり方):通常は時空の端で変分を固定しますが、本研究では特異点を「自由境界」として扱い、そこでの変分を零にしない手続きを採りました。場の作用を変分し、特異点に残る境界項が消えるための条件を導きます。計算は四次元時空でのテトラド(ビエベイン)形式などを用いて行われ、最終的に「時刻ゼロに近づくときに第二基本形式K_{ij}とその体積要素の積がゼロに近づく」という簡潔な境界条件(式(6))が得られます。これは外から見た時刻ごとの面の曲がり方が特異点で一定の重み付きゼロになる、という意味です。
何が分かったか(具体例と帰結):この境界条件を宇宙論的解に適用すると、いくつかの重要な区別ができます。まず、カスナー型(Kasner)やBKL(ベルナルド・カーン・リフシッツ・ライフシッツ)と呼ばれる近接特異点で局所的に異方的に振る舞う解はこの条件を満たしません。一方で、フリードマン・ルメートル・ロバートソン・ウォーカー(FLRW)型の等方的で「共形的に正則」な宇宙、例えば放射優勢の宇宙(圧力P=ρ/3、スケール係数a(t)=t^{1/2})はこの条件を満たします。より一般には、物質が完全文流体で状態方程式P=wρ(w一定)を満たす場合、0≦w<1であれば境界条件が成り立ち、解は作用の停留点になります。硬直流体(stiff、w=1)は作用が有限にならず扱えませんでした。
ゆらぎ(摂動)について:標準的な熱いビッグバンFLRW宇宙に対して線形摂動(スカラー、ベクトル、テンソル)を調べると、境界条件はビッグバンでの「反射」境界条件に対応します。具体的には、コンフォーマル時間ηで表したとき、バーデン(Bardeen)ポテンシャルϕ_Bやテンソル摂動h_{ij}の時間微分がη=0でゼロになります(∂ϕ_B/∂η|_{η=0}=∂h_{ij}/∂η|_{η=0}=0)。ベクトル摂動は許されず、摂動場は特異点で共形的に正則です。塵や放射といった場合は摂動がη=0で解析的に続けられ、η→−ηの反転で不変になることも示されます。これらは大規模な宇宙の観測と矛盾しない性質です。
重要な注意点と限界:本結果は古典的な作用原理に基づくものです。量子的効果や作用に含め得るトポロジックな項(たとえばガウス・ボンネ等の項)は量子論的には重要かもしれませんが、古典的変分問題では無視しています。導出では同時同期ゲージ(synchronous gauge)や、物質ラグランジアンが境界項を生まないという仮定(完全文流体はその例)などいくつかの技術的条件を使っています。したがって、結論はこれらの仮定の下で成り立つものであり、すべての物質模型や量子重力の完全解に直ちに一般化できるわけではありません。また、摂動の扱いは線形近似に限られます。これらの点は今後の検討が必要です。