電子線で作る一個の光子源:線量で純度を制御し、300°Cまで加熱しても元に戻ることを確認
研究は、六方晶窒化ホウ素(hBN)という非常に薄い材料に、決まった場所で一個ずつ光子を出す色中心(単一光子発生器)を作る方法を精密に調べたものです。研究チームは集束電子線で欠陥を作り、電子線の照射量(線量)を変えてできた一つひとつの発光体の出力やスペクトル、寿命、光子の純度を系統的に測りました。代表的な単一光子性は、三つの独立したフレークでg(2)(0)=0.09、0.12、0.16として確認されています(g(2)(0)は同時に二つ以上の光子が出る確率を表す指標で、小さいほど単一光子性が強いことを示します)。さらに室温から300°Cまでリアルタイムで加熱しても発光が消える(サーマルクエンチ)現象は冷却すると完全に元に戻ることを見出しました。これは、瞬時的な加熱が欠陥を永久に傷めるわけではないことを示します。
具体的に行ったことは次の通りです。欠陥は走査型電子顕微鏡(SEM: scanning electron microscope)で局所的に電子線を当てて作成しました。実験条件は電流48.2 pA、加速電圧10 kV、照射時間(線量)を20~180秒で変化させています。作った場所の光学的な調査は、532 nmの連続波レーザー(CW: continuous-wave、出力100 µW)を使った共焦点蛍光測定で行い、時間分解測定はパルス光(20 MHz)で行いました。単一光子性はハンベリー・ブラウン–ツイッス(HBT: Hanbury–Brown and Twiss)干渉計で評価しています。表面の変化は原子間力顕微鏡(AFM: atomic force microscopy)で観察しました。
物理の高いレベルでの訳はこうです。hBN中につくられた点欠陥が色中心となり光を出します。室温でよく見られる約575 nmの強いピークは、最近の低温測定に基づいて、実際には励起の際に生じる音子(フォノン)に由来する側帯(PSB: phonon sideband)であり、本来のゼロフォノン線(ZPL: zero-phonon line)は約548 nmにあると再割り当てしています。電子線の線量を上げると、試料表面に炭素が堆積してスパ2結合(グラファイト状)の発光が約580 nm付近に現れます。この炭素由来の発光は背景光を増やし、信号対背景比(SBR)を下げるため、光子の純度が悪くなります。線量が増えるほど測定された励起状態の寿命は長くなる傾向があり、これは非放射遷移の経路が受動化(passivation)されるか、局所の光学環境(誘電率)が変化するためと説明されています。
この仕事の意義は二つあります。一つは、電子線線量を定量的に制御して「高純度の単一光子源」を作るための最適な窓(条件範囲)を示した点です。位置を決めて発生させられることは、光子回路や集積光学素子への組み込みで重要です。もう一つは、室温より高い温度(最大300°C)までの瞬間的な加熱で発光が消えても、冷やすと完全に回復することを示した点です。これにより、実用機器での一時的な加熱や加工に対する耐性が期待できます。
重要な注意点と不確かさもあります。線量が大きいと試料表面に炭素が蓄積し、単一光子の純度を損なうというトレードオフがあります。報告されたg(2)(0)の値はバックグラウンド補正や暗カウント補正を行わない生の測定値である点にも留意が必要です。また「300°Cまでの加熱で可逆的だった」という結果は、今回の「その場でのリアルタイム加熱」に対するもので、他の報告にあるような外部での高温アニール(焼成)に伴う不可逆的な劣化とは条件が異なります。最後に、本説明は提示された論文抜粋に基づいてまとめたもので、抜粋が全文でないため論文の他の詳細や追加データは本文を参照する必要があります。