多GeV電子ビームの(e−,e+)二重電荷交換反応でレプトン数非保存を直接探る提案
この論文は、原子核に電子を当てて生成される「(e−,e+)二重電荷交換(LDCE)」反応を使い、レプトン数が保存されない現象(レプトン数違反)を加速器で探す方法を提案します。レプトン数違反は標準模型を超える新しい物理(BSM: physics beyond the Standard Model)を示す有力な手がかりです。提案された実験は、多GeV(ギガ電子ボルト)レベルの電子ビームを用い、原子核から即時に出る陽電子を測ることで信号を捉えます。著者らは、この反応が既存の装置で実行可能であり、核の崩壊や捕獲実験に付随する制約を受けにくい点を強調しています。
研究者は理論的な扱いとして二次過程(second-order)の形式主義を用い、左右対称モデル(LRSM: left–right symmetric model)という標準模型の拡張を使ってレプトン数違反の動力学を組み込みました。実際の数値評価には核反応や高エネルギーでの複雑な効果を扱うための現象論的モデルを用いています。反応計算では、中間で虚の(オフシェルの)中性レプトンが交換されること、左手・右手の弱い電流の混合を表す係数(η, κ, λなど)が重要になることが示されます。さらに、中性レプトンの「マヨラナ質量」(自分自身が反粒子になる性質)や、重い中性レプトンの存在が反応に影響します。
具体的な結果として、著者らは多GeV領域でかなり大きな断面積が期待できると報告します。例として、ビームエネルギーおよそ10 GeVの領域で、包摂的な総LDCE断面積が約100×|Γ_BSM|^2フェムトバーン(fb、断面積の単位)程度と推定されました。ここで|Γ_BSM|はBSMに由来する頂点の強さを示す因子です。断面積はビームエネルギーと標的原子核質量(原子番号や質量数)とともに強く増大する傾向があり、中性子寄与を含めると反応率は概ねA^2(Aは質量数)程度まで増える可能性があると示唆されています。著者はこの反応が特にエネルギー・運動量に依存する左右混合項(left–right mixing)によって促進されると指摘します。
重要な限定事項も示されています。軽い中性レプトン(LNL: light neutral leptons)、たとえば質量が1 eV程度のものに対しては、マヨラナ質量に由来する項は極端に抑えられます。論文の例では、10 GeVのビームで質量1 eVの軽い中性レプトンでは質量項の寄与が約1.3×10^−13倍にまで減衰すると計算されています。一方で、重い中性レプトン(HNL: heavy neutral leptons)、たとえば質量が約100 GeVのものでは質量項が有意になり得て、A≲40程度の標的ではRi∼O(1)になると述べられます。さらに、重い中性レプトンが存在すると中間状態のポール(エネルギー特性)がシフトし、低いビームエネルギーで予期せぬ断面積の増強や、逆にしきい値の下に入って信号が消える可能性があることが指摘されています。
最後に意義と注意点です。LDCEは、核内でのゼロニュートリノ二重β崩壊(0νββ)などの低エネルギー実験と、高エネルギー衝突実験で探される同符号二レプトン生成(LLjj)との間をつなぐ実験的道具になり得ます。Schechter–Valleのブラックボックス定理に基づけば、いずれか一つのタイプのレプトン数違反過程の観測はマヨラナニュートリノの存在を示唆します。とはいえ、論文の断面積予測は現象論的モデルに依存し、少なくとも統計的・系統的誤差で約20%の不確かさがあるとされます。また、核反応の非摂動論的な振る舞いや実験的背景の扱いなど、実際の測定には詳細な検討が必要です。著者らは総じて、既存の加速器設備で実験的に追求可能な新しい手法としてLDCEを提案しており、さらなる理論的・実験的研究が見込まれると結論しています。