中国の国営企業の民営化は「労働重視」の技術変化を一時的に促すが、資本への持続的効果は乏しい
この論文は、1998年から2008年の中国製造業を対象に、企業ごとの「資本」「労働」「中間投入(材料)」それぞれを効率化する技術変化を推定し、国営企業(SOE)の民営化が各要素別生産性にどう影響したかを調べています。主要な結論は、技術変化が主に資本と労働に偏っていること、民営化は移行直後に労働を効率化するが長期の資本効率向上は確認されない、というものです。材料効率はほとんど上がらず、むしろわずかに低下する場合がありました。
研究者は新しい推定法を提案しています。生産技術をCES(恒常弾性代替)型と仮定し、企業のコスト最小化の一階条件と観察される投入の費用配分(コストシェア)を組み合わせて、資本・労働・材料それぞれに対応する「要素ごとの生産性」を分離しました。推定には動的パネルのGMM(Arellano–Bond / Blundell–Bond)を用い、要素生産性は自己回帰(AR(1))過程として扱い、一般化最小二乗(GLS)フィルタで観測誤差を分離しています。さらに所有形態や民営化の影響は、所有タイプごとに変わる確率過程としてモデル化し、民営化の選抜問題には「決定から実行まで8–14か月かかる」「年次の審査に結びつく」といった制度的事実を利用して、移行のタイミングを事前決定的なものとして扱い、推定の妥当性を確保しようとしています。
主な実証結果は次の通りです。第一に、資本と労働への技術進歩が速く、材料に対する進歩はほとんど見られません。企業の費用配分の変化とも一致し、1998–2008年で資本の費用シェアは約3分の1に落ちたが、その落ち込みは非国営企業よりもSOEと民営化した企業に集中していました。第二に、常に民間の企業は資本・労働の要素別生産性でSOEを上回りますが、材料ではSOEの方が高いという逆転した順序が観察されました。これは、国営企業が行政的に中間財の配分で有利だったことの反映と考えられます。第三に、民営化そのものは移行直後に労働効率(過剰な雇用の削減を通じて)を上げますが、その効果は全サンプルでは薄れていきます。ただし1998年時点で存在した既存企業群(インカンベント)に限ると、労働効率の向上はより大きく、持続的に残ります。資本効率は移行後に上がるという明確な持続効果は見られません。さらに、国が残した企業の再構築(過剰雇用の退出など)を通じて国営セクター全体はギャップを縮めていった点が重要です。
結果は産業によって大きく異なります。資本に対する成長速度は繊維で短く、金属など重工業で長いといった差があります。民営化による早期の資本効果が明確なのは金属業だけで、労働面の早期効果は機械・運輸や化学のように過剰雇用が重かった業種に集中しています。加えて、民営化は価格設定の変化(マークアップの上昇)と結びつく傾向も報告されています。最後に、国営セクターが追いついた主因は、民営化された企業の劇的な改善ではなく、国家が保持した企業の構造改革と非生産的な事業の退出にあると著者は指摘しています。
注意点と限界も明示されています。民営化の選抜(どの企業が民営化されたかは無作為ではない)を識別するための工夫は講じられていますが、資本に関するいくつかの推定経路には事前のトレンドが残り、資本に対する民営化効果は示唆的な部分があります。全体として民営化の効果は平均で小さいこと、効果が移行直後に偏っていること、産業ごとの違いが大きいことを踏まえて、政策的な一般化は慎重に行う必要があります。また、本研究の結論はCES型の生産関数やAR(1)といったモデリング仮定と推定手法に依存しています。これらの仮定の元で得られた「要素ごとの生産性」という視点は、単一の総要素生産性(TFP)では見落とされがちな内部構造を示しており、国営企業改革の評価に有益な詳細を提供しますが、万能の答えではない点に留意してください。