A=62の原子核で等虚数回転(アイソスピン)対称性を精密検査 62Ge、62Ga、62ZnのCoulomb励起で遷移行列要素を比較
この論文は、原子核物理でいう「アイソスピン対称性」をA=62の三つの核種で精密に検証した研究です。アイソスピン対称性とは、強い力で結ばれた陽子と中性子をほぼ同じように扱えるという性質です。研究者らは、陽子に関係する電磁遷移の強さを示す「E2遷移行列要素」(Mp)が三核種で直線的に変わるかを調べ、等虚数対称性の厳密さをテストしました。結果は、測定の不確かさの範囲で直線関係が成り立ち、遷移行列要素を用いたこれまでで最も精度の高い検証になったと報告しています。
実験は日本・理研のRadioactive Isotope Beam Factoryで行われました。安定な78Krのビームを約345 MeV/核子に加速して薄いベータ(Be)標的に当て、破砕で得た62Ge、62Ga、62Znの二次ビームを分離して同一条件で用いました。二次ビームは約150 MeV/核子のエネルギーで、金(197Au)と炭素(12C)の二つの標的に入射し、Coulomb励起と散乱で2+1状態への励起断面積を測定しました。検出にはBigRIPS・ZeroDegree分光器と、多数のNaI崩壊γ線検出器アレイ(DALI2+)が使われました。
実験手法の要点は、二つの異なる標的を使うことでクーロン(電磁)寄与と核力による寄与を分けて扱えることです。放出されたγ線はドップラー補正とGeant4シミュレーションで応答関数を合わせて解析しました。得られた散乱断面と反応モデル計算(Fresco)を合わせて、核の変形の長さ(δN)とE2行列要素(Mp)を取り出しました。解析では検出効率やスペクトロメータの受け入れ、反応モデルに起因する理論的不確かさを評価して合成誤差を出しています。
具体的な数値も報告されています。2+1準位のエネルギーは62Geで約965 keV、62Gaで977 keV、62Znで954 keVでした。炭素標的での2+1励起断面積はそれぞれ約22.8、22.4、22.6ミリバン(mb)で、金標的では約200、194、195 mbでした。抽出されたδNはおよそ1.11–1.14 fm(フェムトメートル)、B(E2)(遷移確率に比例する量)はおよそ1400 e2fm4のオーダーです。取り出された陽子行列要素Mpは約37–38 efm2の値で、三核種は測定誤差の範囲でほぼ一致し、Mpを等比で並べたとき直線上に並ぶという期待通りの振る舞いを示しました。
この結果の意義は二つあります。まず、同一装置と同一条件で三核種を比較したため、多くの系統誤差が打ち消され、Mpの線形性をこれまでで最も高い精度で調べられたことです。これはアイソスピン対称性がこの質的なテストを満たしていることを示します。二つ目は、得られた値を大規模シェルモデル計算と比較して、核構造や等虚数対称性の破れの起源に関する手がかりを与える点です。
注意点もあります。実験は系統誤差を減らす工夫をしていますが、検出効率の不確かさ(約5%)やZeroDegree受け入れの差(62Gaで約10%など)、反応モデルに由来する理論的不確かさ(動的不相対論補正の無視で約5%、光学模型ポテンシャルで約8%)は最終誤差に反映されています。62Geや62Gaでは2+1以外の間接的な餌入りが観測されなかったため、これを上限で扱って誤差に含めています。したがって、この結果はA=62の特定の遷移についての厳密な試験であり、別の遷移や質量領域での検証が引き続き必要です。