スズ118で初の0+3準位寿命測定が示す「三つの形の共存」の手がかり
この論文は、安定同位体スズ118で「形の共存」と呼ばれる現象を示す新しい実験的証拠を示します。研究チームは0+3(ゼロ・プラス)と呼ばれる励起状態の寿命を初めて直接測定し、その結果から電気単極(E0)遷移の強さρ2(E0; 0+3→0+2)が150(30)ミリ単位と大きく増強していることを見いだしました。寿命は複数のカスケード測定の重み付き平均で74(13)ピコ秒と決まりました。これらの数値は、同じ原子核に異なる形(球形と変形など)が同居し、強く混ざり合っているという有力な示唆を与えます。
研究の背景には、スズ(Sn)同位体群で見られる「イントルーダーバンド」と呼ばれる帯構造があります。これは、Z=50(陽子の殻閉殻)を越えて陽子が2個入れ替わる「2p-2h(二陽子・二穴)」励起によって生じる変形した配置です。こうした複数の形の共存は、0+ 同士のE0遷移が増強することによって観測されますが、118Snでは0+3の寿命データが不完全だったため、混合の程度や形の差を正確に評価できませんでした。以前の研究では116Snでρ2(E0;0+3→0+2)=100(20)ミリ単位、最近は120Snで120(50)ミリ単位が報告されており、今回の118Snの値はこれらと整合的です。
実験はフランスのグルノーブルにある研究炉のFIPPS装置で行われました。標的は117Snで89.2%に濃縮した粉末で、熱中性子を用いた(n,γ)反応で118Snの励起状態を作り出しました。検出器は高純度ゲルマニウム検出器(HPGe)8基と高速なLaBr3シンチレータ15個を用い、約14日間で1.3×10^8個のγ線事象を取得しました。寿命は「一般化中心差法」(feederとdecayと呼ばれる入射・脱出γ線の時間差を用いる方法)と、熱中性子での全カスケードエネルギーを利用する手法で求められました。個々のカスケードから得られたτ=72(17), 70(25), 96(36)ピコ秒を合わせて74(13)ピコ秒としています。これを用いて遷移確率B(E2;0+3→2+1)=0.80(14)ワイドユニット(W.u.)も導かれました。校正には152Eu標準源や48Ti(n,γ)49Ti反応が用いられています。
実験結果は理論計算でも支持されました。研究者らはジェネレータ座標法(GCM、原子核の集団運動を連続的に変わる基底状態の重ね合わせで表す方法)と多準位の相対論的エネルギー汎関数を組み合わせた多参照共変密度汎関数理論(MR-CDFT)を用いて、116、118、120Snで三つの異なる形が自然に現れることを示しました。理論は低励起の0+状態同士を結ぶE0遷移強度やバンド構造の傾向を再現し、実験で観測された大きなρ2(E0)値は形の差と混合の大きさを反映すると解釈されます。ただし、これらの理論結果は用いた模型や計算手法に依存します。
重要な注意点として、この結果は「複数の形が存在する可能性が非常に高い」という強い示唆を与えますが、決定的な証拠を一つで与えるものではありません。測定値には統計的・系統的不確かさがあり(寿命74(13) ps、ρ2は150(30)ミリ単位の誤差)、理論も仮定に基づきます。多形共存は稀な現象で、他の観測や追加の理論的検証が望まれます。それでも今回の直接的な寿命測定は、118Snにおける形の共存と強い状態間混合の理解に重要な前進をもたらします。