1次元モット絶縁体でも波の性質が残ることを実験で確認
この論文は、格子に入れた強く相互作用する1次元の原子気体で、モット絶縁体という本来「粒子が局在する」状態にも波としての「コヒーレンス(干渉)」が残ることを示した研究です。通常、格子系では干渉ピークの有無で超流動(波のように振る舞う)かモット絶縁(粒子的に局在する)かを判断しますが、本研究はその単純な区分が1次元では成り立たないことを示しています。実験では、浅い格子でピニング(格子による固定)によってギャップのあるモット状態を作り、深い絶縁領域でも明瞭な干渉ピークが残ることを観察しました。興味深いことに、観測された干渉はモット成分の割合が増すにつれてむしろ強くなりました。
研究者たちは約1.2×10^5個の133Cs(セシウム)原子で作ったボース・アインシュタイン凝縮を用い、3次元光格子から横方向を強く閉じた2次元配列の中の独立した1次元チューブへと段階的に移しました。縦方向の格子深さVxを0から20Er(Erは格子の光子散乱に由来するエネルギー)まで変え、相互作用の強さに対応する無次元パラメータγ≈2.8の条件で調べました。格子を切ってから50msの飛行時間で原子雲の干渉パターンを撮像し、縦方向運動量分布n(k)を得ました。実験ではVx=5Er付近ですでにモット絶縁域に入る条件で、中心ピークに加えてk=±2kLの側ピークがはっきり現れました。
干渉が絶縁状態自身に由来することを確かめるため、研究チームは格子変調分光法で励起スペクトルも測りました。強い相互作用条件(γ=2.8)では、低周波数で加熱応答が弱く、ある閾値周波数を越えると急増しました。これは励起ギャップの出現を示し、測定ではギャップが0.52(8) kHzと評価されました。並行して行った量子モンテカルロ(QMC)シミュレーションは、ほぼ零温度の箱型トラップで単位充填のモット相を再現し、ほぼ純粋なモット状態でも干渉ピークが現れることを示しました。さらに実験データとQMCは、1体相関関数が格子サイト間で振動成分を持ち、指数関数的に減衰するパターンを示す点で定量的に一致しました。
この結果が示すのは、1次元ではモット絶縁体でも短距離の位相秩序(波の位相情報)が残り、それが飛行中に干渉として現れるということです。従来の「干渉があれば超流動、なければ絶縁」という単純な診断は、少なくともこの1次元・強相互作用・浅格子の条件下では誤解を招く可能性があります。理論的にはハルダンの流体理論が予測する副次的な調和的相関が関係しており、今回の観測はその実験的確認とも言えます。
重要な注意点として、本研究の結果は一維(1D)の強相互作用かつ比較的浅い格子という特定の条件で得られたものです。実験には有限温度や調和トラップによる効果があり、QMCシミュレーションはこれらを考慮して再現性を確かめていますが、結果が二次元や三次元の系にそのまま当てはまるかは示されていません。また、論文の抜粋に基づく報告であり、ここに示された記述が論文全体の全てを包含するわけではない点にも留意してください。